船は誰が?
タローの話を聞いたガルニスは、とても信じられないと苦笑いした。しかし、事実と受け止めるしかない状況だ。
「……もう何と言っていいのかもわからん。頭がおかしくなりそうだ」
まだ「異世界から侵略者が現れた」と言われた方が信じられた。この世界の平和と安定を守ってきたはずの支配の女王が、新たな世界を創るために、今ある全てを創り変えようとしているなど……。
ガルニスは深いため息をついて俯き、そのまま沈黙した。
タローとマリは、やはりこの世界の人たちは、支配の女王を尊敬し、信頼しているのだと感じる。女王に対して、あまり敬意を払っている様子ではなかったガルニスでさえ、この反応なのだ。
しばらくして、ガルニスはゆっくりと面を上げ、タローに問いかけた。
「これから……どうするんだ?」
タローは堂々と答える。
「支配の女王を倒します。女王だからって、何でも好き勝手にしていいなんてことはないでしょう」
「だが、海を渡るのは容易なことじゃない。誰が船を出すんだ? 少なくともエトラ市に乗りこもうって奴はいないぜ」
ガルニスの指摘に、タローもマリも答えられなかった。二人とも船に乗った経験はあっても、操船技術など全くない。もし誰にも船を出してもらえなかったら、そこで詰んでしまう。
まごつく二人に、ガルニスは小さく笑って告げた。
「しょうがねえな。オレもあんたらについていく。考えはあるんだ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
にわかに表情を明るくするタローに、ガルニスは真剣な声で返す。
「礼を言うのはオレの方だ。オレたちの窮地を救い、なおこの世界のために戦おうとしているあんたらを、そのまま見捨てて帰ったんじゃ、武術家の名折れ。末代までの恥だぜ」
彼は大きな拳を握り、タローに向けて軽く突き出した。
タローも拳を突き出して、コツンと打ち合わせる。
マリもタローに倣って、ガルニスと拳を合わせた。
「よし! オレは他の連中にも声をかけてみる。あんたらはゆっくり休んでな」
そう言って立ち上がったガルニスは、宿の中の武術家たちと話をしに行った。
希望は人の大きな力になる。タローとマリの二人は、心強い味方ができたことを、素直によろこんだ。
ガルニスが交渉した結果、宿にいる武術家たちの半数は、タローとマリに同行すると表明した。
槍使いのニッカールコ、罠師のジョンク、バトルメイスのスターキン、短刀使いのトモクロ、二刀流のノーナンヤー。ガルニスを含めた六人の武術家は、いずれも立派な体格をした者たち。
その内の一人、スターキンが他の者たちを代表して、タローとマリに言う。
「クダリ殿、女王陛下が乱心なさったそうだな。やはり永久不変のものなど、世の中には存在しないということ。及ばずながら力になろう」
彼に握手を求められたタローとマリは、ともに応じた。がっしりした大きな手で、力強く握手され、二人は頼もしさを覚える。
その後にガルニスが全員に向けて言った。
「オレたちは東の港で船を借り、ヒシテー大陸の南にあるクス市に向かう。まだ無事だといいんだが」
クス市といえば、ガルニスが武術大会で戦ったケサロの出身地だ。エトラ市よりは女王の城から遠いので、まだ女王のしもべが襲撃していない可能性がある。それでもトーリ町まで女王のしもべが襲ってきた以上、まだ無事だとも言い切れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます