戦う者たち
狂気の女王
女王のしもべが撤退して、トーリ町は平穏を取り戻したが、いつまた襲われるかもしれないと怯えた人々は、さらに西へと逃げようとしていた。この平穏が、一時的なものでしかないことは明白。戦う力がない者にとっては、遠くへ逃げるという選択が最善手だった。
トーリ町の東で戦っていた者たちは、全員武術大会の参加者だった。
エトラ市に滞在していた彼らは、東のウィント市が壊滅したと聞いて、船でトーリ町のあるユニ島まで避難してきていた。しかし、トーリ町に着く前に女王のしもべの追撃を受けたのである。
ガルニスは重苦しい口調で、タローとマリに語る。
「おそらくエトラ市は既に壊滅しているだろう。西に逃げ続けるのにも限界がある。いったいどうして、こんなことになっているのか……」
暗く沈んだ表情をする彼に、タローは告げる。
「支配の女王のせいですよ。女王がクダリを集めていた理由は、創造の力を得るためでした。今、女王は世界を創り変えようとしています」
「羽を生やしたおかしな連中も言ってたが、本当に女王の命令なのか?」
「はい。間違いありません。羽の生えた人たちは元親衛隊。それと女王の正体は神器です」
「神器? どういうことだ?」
「過去にこの世界にやって来たクダリの一人が、絶対的な支配者の存在を願ったんでしょう」
「それが支配の女王だって? 何がどうなっているんだか……。オレのような小物には理解できん」
新事実の連続にガルニスは頭が痛くなる思いだった。世界の新生に伴って、今までの世界が崩れ落ちようとしているのだ。
タローとマリ、それとガルニスを含めた武術家たちは、トーリ町の宿で一休みすることにした。
宿に戻ったタローとマリは、屋内が妙に静まり返っていることに気づく。人の気配がしない。カウンターにも誰もいない。
しかたなくタローがカウンターの上に置いてあるベルを鳴らすと、裏の扉から憔悴した顔の男性が出てきた。
「お客様、何のご用でございましょう」
「用も何も……宿泊ですけど」
「それなら、どうぞ何名でもご自由に。お代はいりません。従業員も他のお客様も、全員退避しています」
マリは男性を気づかう。
「あなたは逃げないんですか?」
「ここは私の宿なので。私も命は惜しいですが、さりとて無責任に空けて逃げるのは忍びなく、しょうがなく残っているだけです」
力なく笑うこの男性の正体は宿の主人。先祖代々宿を受け継ぎ、ともに生きてきた彼にとって、この宿は命よりも大切な物だった。
何はともあれ、無断宿泊せずにすんだので、武術家たちは宿の主人に一言ずつ礼を述べて、部屋に入っていった。彼らは早朝から女王のしもべの襲撃を受けて、休む間もなく戦い、疲れきっていたのだ。
そんな中でガルニスはタローとマリに問いかける。
「あれから何があったのか、詳しく教えてくれないか?」
タローは深く頷いた。
「はい。ちょっと長くなりますけど」
「構わない」
三人は宿のロビーに移動し、低いテーブルを囲んで向かい合って着席する。
タローはガルニスに、これまでの経緯を語った。
武術大会を観戦中に、レジスタンスにハナを連れ去られたこと。
その後に自分もレジスタンスに連れ去られたこと。
惑わしの森で、レジスタンスのリーダーのトウキと出会った時のこと。そこで女王の目的について聞かされたこと。マリもレジスタンスの一員だったこと。
しばらく惑わしの森でレジスタンスの者たちと生活をともにしていたこと。
それから女王の真意を確かめるために、ハナを連れてレジスタンスを離れ、女王の居城に向かったこと。
女王の城の地下でクリスタルに閉じこめられたクダリと、多くの神器を見つけた時のこと。
親衛隊に身柄を拘束され、虚無の大地に送られた時のこと。
ハナの口から、彼女とトウキと女王の正体が神器であると聞かされた時のこと。
虚無の大地にある再生の大穴に、レジスタンスの者たちや、多くのクダリと神器が落とされたこと。自分たちも大穴に落とされたこと。
ハナとトウキの犠牲により、自分たちだけが再生の大穴から抜け出して、再び降臨の地で目覚めたこと。
ハナとトウキは新しい神器に変わって、自分とマリを守っていること。
一月にも満たない間に、あまりに多くのことが起こった。
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