ガルニスとの再会

 迷うタローに対して、元親衛隊の天使――女王のしもべは、容赦なく黒い槍を突き出した。


「危ない! タローくん!!」


 マリの叫び声と同時に、円形のバリアが展開して、反応が遅れたタローを守る。

 命の危機を身をもって感じたタローは、二撃目が来る前に、反射的に反撃の一撃を放っていた。相手が引くよりも深く踏みこみ、右斜め上から左斜め下に向けて、全力で剣を振り下ろす。

 剣は何の手応えもなく、女王のしもべを両断した。臓腑が零れ落ちることも、血が飛び散ることもなく、女王のしもべは白い粒子となって、砂像のように崩れ落ちる。

 斬ったはずのタロー自身、本当に倒せたのかと疑ってしまうくらいに、あっけない終わりだった。


 タローは剣を構えて周囲を警戒したまま、マリにお礼を言う。


「マリさん、ありがとうございました。今のはマリさんの神器……ですよね?」

「そうじゃないかと思う」

「人を助けるために、これからもっと激しい戦いをすることになると思いますけど、まだ戦えそうですか?」

「大丈夫。やるしかないよ。私たちがやらないと、みんなを助けられない」


 義務のような言い方をする彼女をタローは気づかった。


「怖くないですか?」

「怖い……けど、そんなこと言ってる場合じゃないよ。タローくんも、気持ちは同じでしょう? 大丈夫、私にはトウキがついてるから」

「そうですね。行きましょう!」


 あまり決意を揺らがすようなことを言うのは良くないと思い、タローは力強く前を向いた。

 二人は多くの人が走り去った後の大通りに飛び出す。



 大通りでは逃げ遅れた人々を、女王のしもべが抹殺していっていた。その黒い槍に貫かれた者は、黒い煙を上げて霧散する。死体どころか髪の毛一本さえ残らない。

 タローとマリは二人で離れずに行動し、向かいくる女王のしもべたちを、次から次へと斬り伏せた。

 正面から迫る敵をタローが迎え撃ち、背後や側面からの攻撃はマリが防ぐ。二人の活躍で、女王のしもべは少しずつ数を減らしていった。

 タローは戦いの中で、気づいたことがある。両手で剣を持った時に、妙にしっくりくる感覚があるのだ。剣道か野球か、どちらかの経験があったのだろうと、彼は予想する。もしくは両方やっていた。少なくともテニスやバドミントンではない。ゴルフとも違う。


 女王のしもべを退けながら、二人は東へ東へと進撃する。

 その先で二人は、勇敢にも女王のしもべと戦っている者たちを見た。黒い槍の一撃を避け、反撃を食らわせてはいるが、女王のしもべは倒れる様子がない。

 彼らの中に、タローは覚えのある姿を認める。二節棍を振り回す、大柄な男性。


「あれは……ガルニスさん!」


 タローの言葉にマリは反応する。


「知り合い?」

「ボクとハナを大陸まで護衛してくれた人です! こんな所で会えるなんて!」


 タローはガルニスたちを救出するべく駆け出した。

 マリも彼の後について走る。


「ガルニスさん!!」


 女王のしもべを打ち払いながら、タローはガルニスに近づいて声をかけた。


「タロー!? なぜ、こんな所に!」

「話は後です! 先にこいつらを倒してしまいましょう!」

「そうは言うが! こいつら、いくら打っても叩いても、倒れやしない!」

「オレに任せてください!」


 論より証拠と、タローは迫りくる女王のしもべを剣で叩き斬った。女王のしもべは一刀両断され、白い砂の塊となって崩れ落ちる。

 ガルニスは目を剥いて驚いた。


「その剣は……神器か! タロー、ついに見つけたんだな!」

「はい!」


 本当は少し違うのだが、細かい話は後回しにしようと、タローは勢い任せに頷いて返した。

 女王のしもべを率いる隊長は、味方が倒されたことに動揺する。


「あやつ、何者だ!? 余分なクダリは全て始末したはず! 新たなクダリが現れたというのか? ええい、怯むな! かかれ、かかれ!」


 さらに勢いを増して攻めかかる女王のしもべ。一斉に襲いかかられては、いかに神器を持ったタローでも、全てを撃退することは不可能。

 マリはブレスレットに手を添えて、懸命に祈る。


「トウキ、みんなを守って!」


 武術家たちの何人かは死を覚悟していたが、マリの神器の力が女王のしもべを弾き返す。

 予想外の強敵の登場に、隊長は撤退の判断をした。


「クダリが二人も! しかも戦いに使える神器を持っているとは! 引け、引け!」


 女王のしもべは次々と東の空に飛び去っていく。

 どうにか切り抜けられたと、残った全員、安堵と脱力の深い息をついた。

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