再び東へ

 タローとマリは町長宅を訪ねて、そこで改めて女王と面会したいと訴えた。

 二人とも一文無しなので、どうにかクダリの身分を利用しなくてはならない。


「レジスタンス絡みで、ちょっとありまして……」

「ガルニスの奴が失敗したか」

「いえ、エトラ市までは無事に着けたんです。そこでボクたちは、警備隊の人たちに預けられて。それからのことなので、ガルニスさんは悪くないです」

「それならいいが……」


 タローが言いわけすると、町長は渋い顔をしながらも、数日分の生活費を用意してくれた。

 それを受け取ったタローは、町長に深々と頭を下げる。


「ありがとうございます」

「……そう言えば、神器は見つかったんだね」


 町長はタローが持っている剣を見て言った。


「はい。今回は護衛を用意していただく必要はありません」

「ところで、そちらの方は?」


 さらに町長はマリを見て問いかける。

 タローはマリと目を合わせた後、嘘をついた。


「レジスタンスに囚われていたクダリの人です」

「……なるほど。がんばるんだよ」


 町長に純粋に励まされて、タローは罪悪感に顔をしかめる。しかし、これは必要悪なのだと、不快感を飲み込んだ。



 町長宅を後にした二人は、すぐに馬車を借りてクンダ町に向かう。

 馬車を待っている最中、マリは町長宅でのタローの発言を咎めた。


「タローくん、レジスタンスの人たちを悪者にしちゃうんだ」

「……レジスタンスの皆さんには悪いと思ってます。でも、そうでもしないと話が先に進みそうにないので……。ここの人たちは女王を尊敬しているようですし、本当のことを言っても通じないでしょう」

「わかってる。わかってるけど、嫌な気分」

「ボクだって嫌ですよ。嘘をつくのは良いことじゃないですけど、今はこんな所で足止めをくってる場合じゃないんです」


 二人は同時に空を見上げた。

 赤は既に西の空まで伸びている。空が西の果てまで真っ赤に染まった時、いったい何が起こるのか、二人には想像もつかない。ただ不吉な予感だけがある。



 二人は馬車に乗って、クンダ町に移動する。

 タローは御者に、できるだけ急いでほしいと依頼した。空が赤一色になって、それだけで終わるとは彼には思えない。どうにかなってしまう前に、女王を倒さなければならない。

 クンダ町への道中、特に問題は起こらなかったが、二人の表情は晴れなかった。嵐の前の静けさではないかと、二人とも思うのだ。


 馬車がクンダ町に着くころには、空は西の果てまで完全に真っ赤に染まっていた。

 そこでタローは一つの奇妙な事実に気づく。降臨の地で空を見上げた時から、太陽が全く動いていないように感じる。もう日が沈んで夜になっていても、おかしくない時間だというのに。


「マリさん、太陽の位置、変わってなくないですか?」


 タローの指摘にマリは車窓から空を見上げて、首を傾げた。


「ちょっと……わからないかな」

「ボクたちが目覚めた時には、もう太陽は西側に傾いていました。さらにルミエからクンダまで、それなりに時間が経っているはずです」

「確かに。日が沈むのが遅いかも」


 何か大変なことが起ころうとしている。

 タローとマリはクンダの港で馬車から降りて、そのままユニ島に向かう船へと乗りこんだ。

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