再臨の章

再出発

生まれ変わる神器

 タローは新しい神器を、剣の形に定めた。支配の女王にも対抗できる、強く鋭い剣を願った。


「それがタロちゃんの願いの形なんだね。わかった。またね」


 それっきりハナの声は聞こえなくなる。

 続いて、トウキの声がタローに届いた。


「タロー、オレの願いはマリを助けることだ。オレは今日までマリを守るためだけに存在していた。マリは心の強い人ではない。だからオレの代わりに、あんたにマリを守ってもらいたい」

「マリさんの願いは、叶えなくていいんですか?」

「マリの願いは、マリ自身のためにならない。オレはマリに生きていてもらいたい。タロー、マリを頼む。オレは全存在を懸けて、あんたとマリを守る力になろう。絶対に二人は死なせない。だから」

「……わかりました。支配の女王を倒して、マリさんを守ります」

「頼む、頼む」


 それを最後に、トウキの声も聞こえなくなった。

 タローは無限の暗闇の中で、再び立ち上がる決意をした。ハナとトウキの心からの願いをムダにしてはいけないという、強い思いを胸に。





 ――タローは再び降臨の地に立っていた。彼はハナとトウキの加護を受け、再生の大穴を通り抜けて、この世界に再びクダリとして降臨したのだ。彼の手には銀の輝きを放つ剣と、その鞘があった。

 剣はタローでも片手で振り回せる程度の重さで、彼の手によく馴染んだ。


「ハナ……」


 剣を高く掲げて、彼はハナを思う。この剣で支配の女王を倒すのだ。


 改めて決意を固めたタローは、丘の麓のルミエ町に向かう前に、同じクダリのマリの姿を探した。トウキの話のとおりなら、マリも降臨の地にいるはずなのだ。

 タロー自身、トウキの代わりを務められるか分からなかったが、彼女を放っておくわけにはいかなかった。


「マリさん、どこですか!? 返事をしてください!」


 彼はマリを見落とさないように、降臨の地を西から東へと見て回り、眺めの良い東の崖の上で、ようやく彼女を見つけた。


「マリさん!」


 マリは気の抜けた顔で、丘の上から見える海をただ見つめていた。


「どうしたんですか?」


 タローが心配して問いかけると、彼女は目に涙を浮かべて言う。


「トウキがいなくなっちゃった。私を守ってくれるって、ずっと……いっしょだって言ってくれたのに」


 マリは自分が生み出したトウキに依存していた。

 タローには彼女の気持ちが分からなくもなかった。マリとトウキの二人は、タローとハナよりも、長い年月をともに過ごしていた。ゆえに喪失感も比例して大きくなるだろうことは、容易に想像がつく。

 彼はマリに慰めの言葉をかけた。


「トウキさんは最後までマリさんを守ったんです」

「トウキ……」

「大穴に落とされた時、ボクはトウキさんに、あなたのことを守るようにお願いされました。そして女王を止めてほしいと」


 マリは何も答えなかった。

 この状況で立ち直りを急かすのは、良くないことのようにタローには思われた。

 その代わり、彼はマリに自分の決意を告げる。


「ボクは女王と戦います。ハナとトウキさんの仇を取ります。それがボクたちの身を守ることにもなるはずです。このまま女王の思いどおりにはさせません」


 タローは本音ではマリにも戦ってほしかった。彼の推測では、今のマリにはトウキの力が宿っている。それは守るための力。

 タローは自分がハナから剣を受け取ったように、マリもトウキから何か受け取っているはずだと考えた。


「マリさん、ここで目覚めた時に何か持っていませんでしたか? 今まで持っていなかった新しいもの、トウキさんがあなたに託した何かを……」

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