処刑の日

 監禁小屋での生活は肉体的な苦痛は少なくとも、精神的な苦痛は大きかった。手枷をつけたままの活動には慣れても、小屋から出られない不自由さに対するストレスは溜まっていく一方。

 それでもタローはハナに精神を支えられ、日々を耐えた。

 二人に残された唯一の希望はレジスタンス。彼らが女王を何とかしてくれることを期待するばかり。



 ――五日後、監禁小屋のタローとハナの元に、再び親衛隊が訪れた。


「お待ちかねの処刑の日だ。表に出ろ」


 二人は親衛隊に、小屋の外に連れ出される。そこで二人は、大勢の親衛隊員に包囲された、レジスタンスの者たちを見た。その中にはトウキもマリもいる。全員、両手を拘束されて、抵抗できなくされていた。

 タローは深く落胆して、力なくため息をつく。もはや最後の望みも絶たれた。このまま全員、再生の大穴に放りこまれて、創造の力に還元されてしまうのだ。


 親衛隊員は捕らえた者たちの背を、木製の長い棒で乱暴に突いたり叩いたりして、無理やり前に進ませる。そして全員を再生の大穴の前に整列させた。

 親衛隊の指揮官は、しきりに腕時計を気にしている。処刑の時間は予め決められているのだ。女王が創造の力を利用するために。


 ここに至っては、もう助かる可能性はないと、思考停止しているタローに、ハナは小声で話しかける。


「タロちゃん、希望を捨てないで。私、最後までがんばってみるから」

「何か……手があるのか?」


 二人が話していると、後ろから親衛隊員が大声で威圧した。


「何を話している!!」


 二人は慌てて口を閉ざす。

 タローにはハナが何を考えているのか分からないが、今は彼女を信じてみることにした。……このまま死にたくなければ、信じるより他になかった。


 それからしばらくして、新しく虚無の大地に上陸した親衛隊員が荷車でクリスタルと神器を運んでくる。これらも同時に処分するつもりなのだ。

 レジスタンスの者たちの中には、最後の悪あがきのつもりで叫んだり暴れたりする者もいたが、すぐに親衛隊員に棒で打ちのめされて、鎮圧させられた。

 タローもハナも、トウキもマリも、その他のレジスタンスの者たちも、ただ最期の時を待つばかりだった。


 ――そして、その時が訪れる。

 親衛隊の指揮官が片手を上げ、時を告げた。


「時間だ。落とせ」


 彼の命令で、最初にレジスタンスの者たちが底無しの大穴に突き落とされた。

 悲痛な叫び声を上げて、次々と無限の闇に消えていく、レジスタンスの者たち。

 続けて、クリスタルと神器も落とされる。

 タローとハナも……。背中を棒で強く突き押されて、何の抵抗もできないまま。


 果てしなく続く、闇と落下。

 やがてレジスタンスの者たちの叫び声も聞こえなくなり、完全な闇の中でタローは孤独に襲われた。近くにいるはずのハナの存在も感じられなくなっている。

 次第に落下感も消えて、彼の意識は暗闇の中に融けていく。

 しかし、全てが闇に沈む前に、ハナの声が彼の耳に届いた。


「タロちゃん……」

「タロー」


 ついでにトウキの声も聞こえる。


「ハナ、どこにいるんだ? トウキさんも!」

「タロちゃん、落ち着いて、よく聞いて。これから私とトウキさんで、タロちゃんとマリさんを助けるから。私たちの全存在を懸けて、二人を守る」

「全存在って……死ぬ気なのか?」

「私たちは神器だから。持ち主の願いを叶えるのが役目だから」


 タローは何も言えなかった。これがハナが「最後までがんばってみる」と言った、本当の意味だと理解していたから。


「それでね、タロちゃん。神器の私たちが言うのも変だけど、お願いがあるの」

「何だ?」

「支配の女王様を倒して。そのための力をあげるから」

「力?」

「強く願って。私たちは神器、あなたのために生まれ変わる」

「ハナ……」

「悲しまないで。私はあなたが生んだ神器。いつでも、あなたの側に」


 タローはハナと別れたくなかったが、それは無理な願いなのだと直感していた。

 彼が生き延びるには、女王を倒さなくてはならないのだ。

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