タローの神器

 タローはハナをまじまじと見つめたが、どこからどう見ても彼女は普通の人間だとしか思えなかった。支配の女王のように巨大ではないし、人間の理解を超えた不思議な力を持っているわけでもない。

 ハナは改めて、タローに自分の正体を告げる。


「私は……タロちゃんの『神器』。トウキさんがマリさんの神器であるように、本当は人間じゃないの」

「トウキさんも? でも、ハナはどう見たって人間じゃないか」

「私も最初は自分のことを人間だと思ってた。トウキさんに指摘されるまでは」

「トウキさんが嘘を言ってるとかじゃなくて?」

「わかってしまったの。私はトウキさんや女王様と同質の存在だって。私たちは同じだから」


 タローは眉をひそめる。


「つまり、どういうことなんだ?」

「タロちゃん、寂しかったんだよね。心細かったんだよね。気がついたら見ず知らずの世界に一人きりで、記憶もなくて」

「だから……オレがハナを創った? オレの願望でハナが生まれた? クダリが神器を生み出す力で?」


 ハナは無言で再び小さく頷いた。

 タローが現実を受け止めるまで、少し時間が必要だった。今日までの旅の思い出を振り返った彼は、出会った時からのハナの好意的で従属的な態度に納得したが、一方で認めたくない気持ちもあった。自分の願望が生み出した存在に、本気で好意を寄せていたなど、とんだ道化ではないかと。

 しかし、この期に及んで否定はできそうになかった。寂しさと心細さから、誰かを求めたのは事実なのだから。

 タローは俯いて、力なく言う。


「マリさんがトウキさんを創ったのも、同じなんだな。支配の女王も……」


 急に異世界に連れて来られて、都合のいい存在を求めた結果が、ハナやマリや支配の女王なのだと、彼は理解した。

 だが、ハナは首を横に振る。


「女王様は違う。本当に私やトウキさんと同じ目的を持って生まれたなら、生みの親でもある人をクリスタルに閉じこめたりしないはず」

「じゃあ、女王は何のために生まれたんだ?」

「わからない。でも、パートナーとか友達を求めたんじゃないことは確かだと思う」

「……どうして女王は生みの親をクリスタルに閉じこめたんだろう?」

「それは……多分、死なれると困るから。クリスタルに閉じこめられていても、神器の持ち主たちは生きてる」

「持ち主が死ねば、神器も消えるから…ってことか」


 タローは光明を見た気がした。女王にどんな力があっても、神器は神器なのだ。

 もう一度、女王の城の地下室にさえ入れたら、何とかできるかもしれない。ただ、それには現状をどうにかしないといけないが……。


「ハナ、手枷の鍵は外せる?」

「……無理。両手が自由じゃないし、道具も無いし」

「レジスタンスの人たちに期待するしかないのかな……」

「ごめんなさい。タロちゃんのお願いだから叶えてあげたいけど、じゃないと」

「謝らなくてもいいって」


 狭い小屋の中で、タローとハナは二人きり。外に出ることもできない。

 小屋には生活に必要な最低限の設備はあるが、それだけだ。

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