虚無の大地

 タローとハナの二人は、蒸気船から降ろされて、虚無の大地に立つ。

 虚無の大地は全く不毛の土地だった。赤茶けた土に覆われた大地には、草木の一本も生えていない。それどころか小虫の一匹も見かけない。水の豊かな大河はおろか、小川の一筋も流れていない。まさに「虚無」という名のとおりの場所。

 親衛隊員らはタローとハナの背中を押して、強制的に歩かせた。

 二人は海岸から離され、平坦な虚無の大地の内側へと移動させられる。


 そして二人は虚無の大地の中央に開いている、巨大な穴を目にした。

 大地にぽっかりと開いた大穴は、底が見えないほどの深さ。覗きこもうとすれば、そのまま落ちてしまいそうだ。

 親衛隊員らは二人を、虚無の大穴の近くに建てられた、監禁小屋に閉じこめる。


「お前たちの処分は、レジスタンスの連中と同時に行われる。観念して待つがいい」

「どうして今すぐ処分しないんですか?」


 敵意を含んだタローの問いかけに、親衛隊員らは押し黙り、互いの顔を見合った。

 少し間を置いて、一人の親衛隊員が答える。


「……まあ、どうせ最後になるんだから聞かせてやろう。この機会に女王陛下は世界を創り変えられるおつもりなのだ」

「つくり変える?」

「クダリを一匹ずつ処分しても、新たなクダリが現れるだけだからな。有用な神器は既にそろっている。これ以上、役立たずのクダリと神器を集めても意味がない」

「もうクダリが現れないようにするんですか?」

「違うな。女王陛下は神になられるのだ」

「神……!? そんな……本当にそんなことができるんですか?」

「女王陛下ならば、可能であられる。創造の力を使い、全てを司る存在に」


 タローは親衛隊員の話を半信半疑で聞いていた。いくら何でも、神になることは不可能だと思うのだ。しかし、ろくでもないことを企んでいるのは確実。

 親衛隊員らは高笑いする。


「お前たちが、その瞬間を目にすることはないだろうがな! ハハハ!」


 そのまま親衛隊員らは小屋から離れていく。

 タローとハナの両腕は手枷をされたままで、とても脱出できそうにない。仮に脱出できたところで、この何もない虚無の大地からは出られない。

 いよいよ手詰まりとなって、タローは仰向けに寝転んだ。親衛隊員の態度からして二人に残された時間は多くないが、後は妙案が自然に思い浮かぶのを待つしかない。

 そんな彼にハナは話しかける。


「それで……タロちゃん、船での話の続きなんだけど」

「ああ、女王が……何だったっけ?」

「女王様が『神器』だっていう……」

「……どうして神器なんだ? なんで、そんなことが分かるんだ?」

「トウキさんが言ってたから……」

「トウキさんが? でも、それなら……どうしてハナにだけ教えて、オレには教えてくれなかったんだろう?」

「それは……私もトウキさんも、女王様とだから……」


 タローは起き上がり、改めてハナに問いかけた。


「ハナは人間じゃないのか? オレと同じクダリじゃ……ないのか?」


 ハナは小さく頷く。

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