連行
タローとハナは城の正門から最も離れた場所に、まるで隠すように置かれている、冷たく暗い牢の中で一晩を過ごすことになった。牢の中は清潔だったが、それが何の慰めになるわけでもない。無論、汚いよりは良いのだが……。
タローとハナは身を寄せ合って、寒さを凌いだ。
「ごめん、ハナ。オレが神器選びをしくじらなければ……」
「しょうがないよ。どれがどんな神器かなんて、全然わからなかったんだから」
「でも、このままだと確実に殺されてしまう。どうにか出られないかな」
「鍵を開ければ……。でも、見張りの人がいるから」
「見張りか……。うぅ、ダメだ。頭が働かない。もう、眠くて……」
もう夜も遅く、話しているうちにタローは眠気に襲われて、意識を失った。
――次に彼が目覚めた時には、もう朝になっていた。
朝食の時間もなく、タローとハナは親衛隊員に数人がかりで手錠をかけられ、地下牢から謁見の間に引き出された。
そこで支配の女王は二人を見下して言う。
「本当に愚かなことをしたな。そなたらの処遇は既に決まっておる。それでは刑罰を言い渡す。そなたらは北の地に追放。話は以上だ」
冷淡に宣告した女王は、もう話す舌も持たないと口を閉ざす。
この期に及んでは弁解の余地もなく、そのままタローとハナは親衛隊員に囲まれ、謁見の間から連れ出された。
タローもハナも一旦は牢に戻されると思っていたが、二人はそのままロープウェイに乗せられて、セミ山の北側に移送された。
ロープウェイのゴンドラの中で、タローは近くの親衛隊員に尋ねる。
「北の地って、どこなんですか?」
「虚無の大地と呼ばれている所だ」
「そこって、もしかして再生の大穴がある所ですか?」
親衛隊員は眉をひそめて黙りこんだ。
否定しないということは、やはり自分たちは再生の大穴に放りこまれて処分されるのだろうと、タローは考える。
セミ山の北にある小さな無人のステーションでロープウェイから降ろされたタローとハナは、そのまま近くの船着場に連行された。
これから船で虚無の大地に渡るのだ。
タローとハナは親衛隊員らに小型の蒸気船の船倉に押しこめられる。
ゆったりと大きく揺れる船倉の中で、どうにか脱走できないかと知恵を絞るタローに、ハナは小声で話しかけた。
「あのね、タロちゃん……」
「ん? 何?」
「大事な話があるの」
思いつめた様子のハナに、タローは緊張して息を呑んだ。
「お城の地下室に、水晶に閉じこめられた人たちがいたよね?」
「あぁ」
「暗くてよく見えなかったけど、全部で百人ぐらいはいたんじゃないかな」
「そんなに? あれ、何なんだろうな?」
「……あれは神器の持ち主だと思う」
「――ってことは、クダリなのか? 百人も? 持ち主が死ぬと、神器も無くなってしまうから?」
「そうだと思う」
だから何なんだろうと、タローは思った。確かに重要な話かもしれないが、脱出の役には立たない。今は何よりも再生の大穴に放りこまれるのを避ける手段を見つけることが第一なのに、あまり関係のない話に時間を費やすのは賢くない。
しかし、ハナは続ける。
「支配の女王様は人間じゃないよ」
「そう……なのか? 確かに人間離れした大きさだったけど」
ここは異世界だから、巨人という種族がいてもおかしくはない。
支配の女王は巨人だから人間ではないということか、それとも別の意味なのかと、タローは訝る。
「女王様の正体は……『神器』」
「神器? どういうこと?」
「私やトウキさんと同じ……」
「同じ?」
「だから――」
話の途中で、船倉のドアが開けられ、二人は親衛隊員らに外に連れ出された。
虚無の大地に着いたのだ。
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