城の地下室
その後、メイドたちがタローとハナに昼食を運んできた。
豪勢なフルコースの料理だったが、タローは毒入りの心配をして、口をつけるのをためらう。一方でハナは彼が止める間もなく、無防備に料理を口に運んだ。
……ハナに変わった様子がなかったことから、タローもゆっくり料理を食べる。
彼はハナに毒見をさせているようで申しわけなく思ったが、当の彼女は少しも気にしていなかった。
それから夕方になり、またメイドたちが夕食を運んでくる。
タローとハナは速やかに夕食を取り、客室のベッドで仮眠して、夜を待った。
メイドたちも真夜中までは働かない。地下室に忍びこむなら、その時しかない。
――そして深夜、タローとハナは慎重に客室を抜け出して、真っ暗な中、忍び足で城の地下室へと向かった。
二人に対する監視は緩かった。この城は高い山の上にあり、地上とのアクセス経路はロープウェイだけ。ロープウェイと正門さえ押さえておけば、誰も城から抜け出せないのだ。
二人は地下室の階段を下りている途中で足を止め、扉の前に人がいないか、陰からのぞきこむようにして確かめる。
……昼間にいた見張りの親衛隊員はいなくなっていた。タローとハナは小走りで、地下室の扉の前に移動する。
そこでハナはヘアピンを使って、鍵穴をいじりはじめた。
その間にタローは誰か来ないか、周囲を見張る。
――そう時間を置かずに、ハナが小声でタローを呼んだ。
「タロちゃん、開いたよ」
「えっ、早くない?」
早くて困ることはないのだが、手際が良すぎてタローは驚いた。
しかし、これは好機。タローとハナは全力で扉を押し開ける。
重い鉄の扉はギギギと大きな音を立てたが、神器さえ手にしてしまえば、親衛隊が相手でも何とかなると信じて、二人は駆け足で中に入った。
扉の向こうには更に下り階段があり、その先は広い空間になっていた。
明かりの一つもないために、二人には室内の全貌がよく分からなかったが、部屋の中に巨大なクリスタルが並べてあることだけは分かった。
クリスタルは淡く発光していて、中には人が入っていた。
「これは……?」
タローはクリスタルに近づいて、中の人をよく見てみる。
年齢も性別も異なる人々が、それぞれのクリスタルの中で眠りについている。
「誰なんだろう?」
どうして地下室に、こんな物が置かれているのか、タローには全くわからない。
見ず知らずの人を眺めていてもしかたないと、彼はすぐに神器を探しにクリスタルから離れたが、ハナは魅入られたようにクリスタルを凝視していた。
タローは暗い中で、どうにか剣のようなものを探し当て、それを手に取る。どんな効果を秘めているかは知らないが、剣なのだから殺傷力があるだろうと思ったのだ。
直後、地下室に明かりが灯る。その眩しさにタローは目を閉じた。
「いったい何のつもりだ? いくらクダリとはいえ、見すごせることではないぞ」
支配の女王が親衛隊を引き連れて現れる。
タローは剣を構えて、クリスタルの前のハナを庇うように立った。
「何のつもりもなにもあるか! あんたはオレたちクダリを集めて、処分しているんだろう!?」
「どこでそんな話を聞いたのかな? レジスタンスの連中か」
「そうだ!」
「やれやれ……困ったものだ。おとなしくしておれば、客人のままでいられたというのに。とにかく罪は罪だ。そなたらには牢に入っていてもらおう」
親衛隊は長槍を構えて、タローとハナを包囲する。
タローは剣を片手に警告した。
「この剣が見えないのか! オレには神器がある!」
だが、女王はタローを嘲笑った。
「数多ある神器の中から、よりにもよってその剣を選んでしまうとはな。それは剣ではあるが、戦いに役立つ力は秘めておらぬ」
「なんだって!?」
「その剣は雨を呼ぶ。ただそれだけの、役に立たぬ代物よ」
女王が王笏を振るうと、青い怪光線が放たれて、タローの体の自由を奪う。
この王笏も神器なのだ。
なす術なく二人は捕らえられ、牢に入れられることになった。
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