女王との謁見

 女王の周囲には親衛隊とメイドが何人も配置されている。

 実力行使は無理そうだと、タローは判断した。そもそも女王が巨大すぎる。これも全くの想定外だった。


「クダリの方、ようこそ我が城へ」


 威厳のある女王の声は、タローとハナの全身を貫くように響き、二人は身を竦めて畏まると、その場で膝をついて首を垂れた。


「そう畏まらずとも良い。既に存じておろうが、私が支配の女王だ」


 身動きの取れない二人に、女王は高みから見下した笑みを浮かべる。


「案ずることはない。諸々の事情は聞き及んでおる。それにここの者たちはクダリの対処も心得ておる。そなたらは明日にでも、クダリの暮らす集落に送らせよう。今日のところは我が城に滞在するが良い。では、下がれ」


 女王の態度は尊大だったが、二人は反感を抱く余裕もなかった。それほどに女王の存在が圧倒的だったのだ。

 二人は言われたままに、謁見の間を後にして、客室に戻った。



 客室でタローはハナに、女王を見た瞬間の率直な印象を語る。


「女王って人間なのか? 明らかにおかしいよな?」

「……そうだね」


 しかし、ハナは元気がない。相変わらず俯き加減で、無気力な相槌を打つ。


「やっぱり、具合が悪いのか?」

「ううん、そうじゃなくて……」


 タローはハナの言葉の続きを待ったが、彼女は顔をしかめて黙っているばかりで、続きを語らない。

 タローも顔をしかめたが、二人でしかめっ面をしていてもしょうがないと、改めて女王について語った。


「女王は普通の人間じゃない。オレたちとは違うし、この世界の普通の人とも違う。あれは何なんだ? 巨人? それとも神様みたいな存在?」


 彼はハナに意見を求めたが、ハナは無反応だった。タローのことを無視しているというよりは、何かをためらい、迷っている。

 しかたなく、彼は話題を切替えた。


「女王はクダリが暮らす集落があるって言ってたけど……。トウキさんの話とは矛盾するよな。ハナはどう思う?」

「女王様が嘘を言ってると思う」


 今度は率直な反応が帰ってきて、タローは困惑したが、同時に安心もした。


「やっぱり、オレたちを逃がさないための適当な嘘なのか」

「そうだと思う」


 だが、ここまではっきり断言するのかと怪しく思わなくもない。やはりハナは何かを知っていて、タローには隠している。

 ここで追及しても、明かしてくれないだろうことは明白なので、彼としてはハナが自分から話す気になるまで、待つしかないのだが……。


 少し間が空いて、タローは再び話題を切替える。


「地下室のことだけど、何か良い案は無いかな?」

「……ごめんなさい。何も思い浮かばない」


 地下室への扉の鍵を開けられるのが、女王しかいないのであれば、こっそり地下室に侵入するのは絶望的だ。文字どおり巨大な女王には、立ち向かうことさえできそうにない。状況は八方塞がりに思え、タローは両腕を胸の前で組んで、低く唸った。

 しばらくして、ハナがタローに問いかける。


「地下室の前に見張りがいたってことは、鍵が無くても入れるってことなんじゃないのかな?」

「どうして?」

「だって、女王様しか扉を開けられないなら、見張りを置く必要はないじゃない?」

「……そうかもしれないけど、見張りを何とか出し抜けたとしても……どうやって扉を開ければいいんだ?」

「爆破するとか」

「爆弾なんか持ってないよ」


 ああでもない、こうでもないと、二人は今までの気まずさを解消するかのように、知恵を出し合ったが、なかなか妙案は思い浮かばない。


「マンガとか映画みたいに、針金か何かで鍵を開けられたらなぁ……。こう、カチャカチャっと」

「私、できるかもしれない」

「……えっ、ホントに?」


 ハナの急な発言に、タローは怪訝な顔をした。この世界に来てから、長くいっしょにいたつもりだったが、ハナの特技の話など聞いたことがなかった。単に語る機会が無かっただけで、実は得意でしたということはあるのかもしれないが……。


「嘘は言わないよ」

「ああ。でも、初耳だったから」

「できる……多分、できると思う」


 ハナ自身も断言はしなかったので、タローは判断に困ったが、その後も話し合った結果、やるだけやってみようということになった。

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