城の地下室

 城の地下へと続く階段の先には、大きな鉄の扉があり、その前には親衛隊の見張りが立っていた。

 メイドはタローに振り向いて言う。


「あの先が地下室です。見張りは許可のない者を通しませんし、扉には鍵がかかっています。それに扉の鍵を開けられるのは、女王陛下だけなんです。……これで諦めていただけますね?」

「はい……」


 地下室の守りの堅さに、タローは素直に引き下がった。彼は地下室に侵入する妙手が浮かぶまで、メイドの案内に黙って従うことにする。

 正面突破が無理なら、抜け道を探す必要がある。しかし、扉を開けられるのが女王だけとなると……。誰かを人質に取って、脅しかけることも考えないといけない。

 だが、焦って短絡的になるのは禁物だ。女王がタローとハナを処分しようと考えていても、今すぐ実行するとは限らない。

 タローは逸る心を落ち着けて、ハナを顧みる。

 ハナは神妙な面持ちをして、俯き加減で歩いていた。


「ハナ? 具合でも悪いのか?」

「えっ、違うよ。何でもない」


 タローの問いかけに、ハナは素早く顔を上げて、取り繕った笑顔を見せる。


「ごまかさないでくれよ。何か考えごとしてた?」

「……ちょっとだけ」

「何を考えてたんだ?」

「その話は後にしよう?」


 メイドに聞かれては良くないことなのだろうと、タローは深くは追及しなかった。



 メイドの案内で城内を一通り見て回った二人は、客室に戻ってきて、支配の女王と謁見する時間まで待つことになった。

 客室で二人だけになれたので、タローはハナに尋ねる。


「それで、ハナは何を考えてたんだ?」

「女王様のこと」

「支配の女王が何か?」

「やっぱり女王様は良くない人だと思うの」

「それはオレも分かってるよ……。トウキさんが言ってたことだろ?」

「そうじゃなくて、私の……直感っていうか……」


 要領を得ない彼女の話に、タローは眉をひそめる。


「なんか、そういう特殊能力でもあるの? 悪い人がわかるとか?」

「うん……」


 遠慮がちに頷くハナに、タローは疑いの目を向けた。女王が良くない人だと言うのは嘘ではないだろうが、やはり何かを隠している。


「オレに言えないことでもあるのか?」

「……うん。でも、信じてほしいの」


 当然タローはハナを信じるつもりだったが、隠しごとをされたままでは気分が良くなかった。

 二人の間に、小さなわだかまりが残る。





 それからしばらくして、女王との謁見の時間になり、メイドがタローとハナを迎えにきた。

 メイドに案内されて、二人は謁見の間に踏み入る。そこで二人は女王と対面すると同時に、驚愕した。

 女王は大きかった。体の大きさが常人の二倍……いや、三倍か四倍、もしかしたら五倍以上かもしれない。とにかく巨大な人物だったのだ。「人」と呼んで良いのかも分からないぐらいに。

 女王は金銀の刺繍の法衣を着て、頭には七つの宝石をあしらった金の王冠を戴き、右手には水晶玉を埋めこんだ杖を持っている。

 二人は女王の威容に圧倒されて、言葉を失っていた。この城はただ無意味に巨大に造られているのではない。全て、女王のサイズに合わせられた結果なのだ。

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