女王の居城

 ゴンドラは女王の居城の中へと入ってゆく。城内にゴンドラが丸ごと収まるほど、大きなロープウェイのステーションがあるのだ。

 タローは女王の居城の巨大さに圧倒された。ゴンドラから見下ろせる城の正門は、まるで身長が何メートルもある巨人でも出入りするかのよう。よく観察すると、正門だけでなく城全体のスケールが尋常でなく大きいことに気づかされる。

 霧に覆われた灰色の巨城は、豪華というよりは荘厳。神秘的なものを感じさせる。

 支配の女王とは、いかなる人物なのか……。タローの手は緊張で震えていた。


 ゴンドラから降りたタローとハナは、親衛隊に客室へと案内され、そこで待つように言われた。

 タローは今がチャンスだと、一人の親衛隊員を呼び止めて問いかける。


「すみません! ちょっと、お城の中を見て回ってもいいですか?」


 親衛隊員は少し思案してから了承した。


「はい。案内の者をつけましょう」


 タローとハナを案内するために、城のメイドが一人つけられる。女王の居城ということが関係しているのか、城内で働いている者の多くは女性だ。高い山の上という、地上からの侵入が困難な立地も関係しているのか、城内に親衛隊の姿は少ない。

 どうにか城の地下に行く方法はないものかと、タローは真剣に考えていた。


 メイドは最初に、タローとハナを城の最上階の展望室へと案内する。城の中は入口だけでなく、窓から天井から、照明の位置まで、何から何まで巨人用のサイズ。廊下も階段もである。特に階段は巨人の歩幅に合わせたように、一段一段が長い。


 展望室の外には雲海が広がっていた。タローにとっては、映像以外では初めて見る景色だったが、それよりも彼の目を引いたのは、これもまた巨人に誂えたかのような巨大な玉座。

 メイドはタローとハナに解説を始めた。


「今日ように雲の多い日には一面の雲海が、晴天の日にはダイ島の向こうに広がる海の果てまでご覧いただけます。女王陛下も毎朝・昼・夕・夜の四度は必ず、ここから下界の様子をご覧になっています」


 下界という言い方に、タローは女王の権威の強さを感じ取った。女王は下々の者とは違う、天上の存在ということだ。


「お気に入りの場所ってことですか?」

「女王陛下のご本心を私どもが勝手に拝察することは畏れ多いですが、そうなのだと思います」


 雲ばかり眺めていてもつまらないと、タローはメイドに尋ねる。


「このお城って、地下室とかないんですか?」

「ありますが――」

「地下室も、こことか他の場所みたいに広いんですか?」

「はい。そうですね」

「それにしても……どうしてどこもかしこも、こんなに広いんです?」

「それは女王陛下のお住まいですから」

「お城の地下室って何があるんですか?」


 タローの矢継ぎ早の質問に、メイドは眉をひそめた。

 焦りすぎたかもしれないと、タローは自重する。


「いや、お城なんて初めて見るので……ちょっと興奮して」


 メイドはあきれたように息をついてから答えた。


「地下室に何があるかお教えすることはできません」

「えっ、どうしてですか? 座敷牢があるとか、何かヤバいことをしてるとか?」

「お客様をお通しするような場所ではありませんので……」

「そう言われると、ますます気になりますよ」

「ダメなものはダメです」

「どうしても? だったら、地下への入口だけでも見せてもらえませんか? どんな感じの所なのか……。中まで入れろとは言いませんから」


 しつこいタローの頼みに、メイドは困り顔で思案していたが、やがて了承した。


「ちょっと見るだけですよ」

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