女王親衛隊

 警備隊員はエトラ市に着くまで、馬車の中で質問を続けた。どうやって惑わしの森から脱出したのか、レジスタンスの者たちに何か聞かれなかったかと、根掘り葉掘り尋ねられたが、タローは無知を装った。

 どうやって森を出たのかは必死だったので覚えていない。レジスタンスの者たちに大したことは聞かれなかった。前者は明らかな嘘だが、後者に関しては部分的にではあるが事実だ。

 取り敢えずは聞かれた事だけに答え、時々ごまかしたり、嘘を言ったりして、その場を凌いだタローとハナだったが、経験豊富な警備隊員は小さな違和感を見逃さず、二人の態度を怪しみ、もっと深く事情を聞くべきだと考えていた。



 それから夕方になって、エトラ市に着いた途端、ウィント市から来たという女王の親衛隊が、タローとハナの身柄を預かると言い出した。レジスタンスごときに後れを取り、クダリを守れなかった警備隊には、もう二人の護衛を任せられないということだった。親衛隊員が言うには、これは女王の勅命であり、警備隊も素直に従うより他になかった。

 面倒な事情聴取が打ち切りになったことは、タローにとってはありがたかったが、親衛隊の強権的なやり口には、少しの反感を覚えた。

 タローとハナは警備隊の馬車より一回り大きい、豪華な親衛隊の馬車に乗せられ、ウィント市へと向かう。


 白くゆったりした制服に、銀の胸当てをつけた、エリート風の親衛隊員は、馬車の中でタローとハナに対して堂々と言う。


「ご安心ください。我々は警備隊の連中とは違います。絶対にお二人を危険な目には遭わせません」


 タローは遠慮がちに親衛隊員に尋ねた。


「……もう夜になりますけど、いつウィント市に着きますか?」

「深夜になる前には着きます。既に宿も手配してあります。ご心配なく」

「その後は?」

「朝になったら、女王陛下の王宮のあるセミ山に向かいます」

「朝は早いですか?」

「ご希望であれば、多少は融通を利かせます」


 親衛隊員は段取りを急いでいる。一刻も早くクダリを女王の元へ連れていきたいのだろうと、タローとマリは察した。


「遅くすることはできませんか?」

「何か特別な事情でも?」

「そういうわけじゃないんですけど……」

「ムダに時間をかけることはお奨めしません。グズグズしていると、いつまたレジスタンスに襲われないとも限りませんので」

「そのレジスタンスなんですけど、放っといていいんですか?」


 レジスタンスに襲われる心配をするくらいなら、今からでも討伐するなど手を打たないのかと、タローは疑問に思った。

 だが、親衛隊員の反応は冷淡だった。


「女王陛下が我々に下された命令は、クダリのお二人を無事に女王陛下の元へと送り届けること。治安の維持――レジスタンスをどうするかは、警備隊の者が考えることです。女王陛下からのご指示があれば、話は別ですが」


 警備隊と親衛隊は性格の異なる組織であり、協力することはない。縦割行政だなとタローはあきれて小さく息をついた。トウキやマリのことを思えば、その方が良いのだが……。



 夜も更けて、ようやく馬車はウィント市に着く。そのまま市内に進入した馬車は、迎賓館の前で停まった。

 長らく同じ姿勢で馬車に乗っていて、疲労していたタローとハナは、迎賓館の一室に案内されると、すぐに眠りについた。

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