レジスタンスを離れて

 タローがトウキと話した、その日の夜、彼はハナと女王暗殺について話し合う。

 その結果、二日後の昼に森を出て、近隣の村ロクソンに立ち寄ることになった。

 ハナは彼の考えに反対しなかったし、意見を言うこともなかった。それがタローには少し不満だった。全肯定されると、それはそれで不安になるのだ。



 そして当日。タローとハナは森の外までレジスタンスの者たちに案内してもらう。


「じゃあな。うまくやれよ」

「はい」


 ロクソン村を遠くに望む森の出口で、二人はレジスタンスの者たちと別れた。ここからは見えている村に真っすぐ歩くだけ。迷うことはない。

 二人は手を繋いで、村へと向かった。

 タローの胸には不安が募るが、ハナを守らなければならないという思いが、彼の心を支えた。


 村に着いた二人は、最初に会った村民に、自分たちがクダリであることを明かす。そして自分たちはレジスタンスに連れ去られて、どうにか脱出してきたところなのだと伝えた。

 それから二人は村長の家に預けられ、エトラ市からの迎えを待つことに。今度こそ二人はウィントから女王の居城に向かうことになる。





 エトラ市からロクソン村に迎えの者たちが来るのは、三日後の昼とのことだった。

 それまでの三日間、タローとハナの二人は村民の厚意で、特に不自由せず暮らしていたが、タローの心中は複雑だった。客人としてもてなされた日々は、森での生活とは比較にならない。

 楽をできる立場に甘えたい気持ちを自覚して、タローの心は揺れる。トウキの話は信じられるのか、疑いの気持ちが大きくなる。だが、クダリであるトウキが自分たちを騙すメリットがない。人質にしたり、何かを強要するならともかく、こうして解放することに何の意味があるのか……。


 タローは就寝前、ハナに相談してみた。


「トウキさんの話、ハナは信じても良いと思う?」

「うん」


 ハナは静かに頷いた。そこに迷いはなかった。


「ハナは……どうしてトウキさんを信じられるんだ?」

「あの人には、マリさんがいるから」

「マリさん……か」


 トウキを信じているのではなく、信じるのだろうと、タローは理解する。女同士で通じる何かがあったのだと。

 ハナがトウキを信じている以上、自分も彼を信じるべきなのだろうと考え、タローは迷いを振りきった。少なくとも、女王のことは疑ってかかる必要がある。トウキと同程度には。





 エトラ市から馬車でタローとハナを迎えにきたのは、警備隊員たちだった。彼らは二人を直接ウィント市には連れてゆかず、まずはエトラ市でレジスタンスについて、事情聴取をするつもりだった。

 馬車の中で警備隊員の一人が、タローとハナに質問をする。


「まずはご無事で何よりです」

「……はい」

「早速で申し訳ないのですが、お二人が今日までどうされていたのか、詳しくお話しいただけると助かります」


 タローとハナはお互いの顔を見合った。

 ここは自分が代表して話をしようと、タローはハナを無言で制する。


「オレが話します」

「はい」

「えーと……オレたちはレジスタンスに捕まってたんですけど、ひどい目に遭ったりはしませんでした。ちょっと生活が不便だったぐらいで」

「神器のこと、何か聞かれたりしませんでしたか?」


 そう言えば……と、タローは内心で驚く。


「いえ、全然……」


 レジスタンスは女王に対抗するために神器を求めているはず。それなのにタローもハナも神器については全く聞かれなかった。

 タローが自分から尋ねた時にも、トウキは「子供を当てにはしない」、「無い物はしょうがない」と言っていたが、それにしても……どんな神器かも気にせず、探そうともしないのは、どうしたことか?

 警備員も不可解に思って、低い声で小さく唸る。


「不思議ですね。なぜだと思いますか?」

「……そんなことを聞かれても……」


 タローには何も答えられない。

 その隣でハナは沈黙を貫いていた。

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