マリとトウキ
トウキは自ら小屋のドアを開けて、タローとハナに外に出るように促す。
小屋の外は雑木林だった。そびえ立つ大木と大木の間に、木造の小屋が一件ずつ、ある程度の間隔で建てられている。まるで森の中の村。それぞれの小屋を見分ける、特徴らしいものはなく、どこに何のための施設があるかも分からない。
ここがレジスタンスのアジト。
ハナとタローはトウキに連れられて、集落の端にある小屋に入った。小屋の中には靴を脱ぐ土間があり、部屋の間取りも和風だ。土間と繋がっている台所には、汁物の料理をしている一人の女性がいた。
彼女がマリなのだろうと、ハナとタローは理解する。黒い髪を後ろで束ねた、若い女性――ではあるが、タローとハナよりは少し年上。服装は現代的ではなく、現地のものに近い。
「あっ……どうも」
彼女はハナとタローを見ると、一度料理の手を止めて、小さく頭を下げた。
ハナとタローも礼をして応じる。
「こんにちは。私はハナと言います」
「ボクはタローです」
マリは愛想笑いをして名乗った。
「マリです」
それから彼女はハナとタローに背を向けて、料理を再開する。
トウキは少し顔をしかめた後、ハナとタローに言う。
「上がってくれ。これからの話をしたい」
二人は言われるままに、靴を脱いで小屋の中に上がり、木の床の上に座ってトウキの話を聞いた。
「見てのとおり、ここは街とは違って、何もかも自給自足の生活だ。以前より不便な思いをするだろう。だが、耐えてもらう」
「はい」
ハナもタローも気は進まなかったが、そうしなければ女王に処分されてしまうかもしれないのだから他に選択は無い。
「あんたらに何かをしてもらおうとまでは思っていない。ただ女王の元に行かないでくれるだけでいい」
ハナもタローも戦いに関しては素人だったので、レジスタンスのリーダーから直々にそう言ってもらえることはありがたかった。
しかし、神器を目当てに連れ去られたと思っていたタローは、不思議でならない。
「いいんですか? 神器のことは?」
「気にするな。子供を頼りにするほど、落ちぶれちゃいない。正直、神器が有用な物だったら、協力してほしかったが……持ってないんだろ? 無い物は無いんだから、しょうがない。だが、それでもできるだけ、ここの者たちの手伝いをしてもらえるとありがたい。そんなに難しいことは言われないと思うが」
「はい」
昨日まではクダリとしてお客様扱いされる生活に甘えていた二人だが、これからはそうもいかない。特に何ができるわけでもないのに、「クダリ様」などと呼ばれて、ありがたがられる今までが異常だったのだと、ハナもタローも割り切った。
最後にトウキはタローに告げる。
「タロー、もしオレに何かあったら、マリのことを頼む」
「えぇ……? そんな、いきなり何を……」
ただただタローは困惑した。同じクダリ同士、困った時には助け合ってくれということなのだろうが、今ここで言う必要はないと思うのだ。
「いつか、あんたにも分かる時が来る」
トウキは諭すように言った後、ハナにも視線を送った。
ハナは渋い顔をしたが、この場で文句を言ったりはしなかった。
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