女王の秘密

 タローは警戒心を緩めて、トウキに問いかけた。


「待ってください。情報を整理させてください。まず、支配の女王の目的はいったい何なんですか?」

「クダリがもたらす有用な神器を集めることだ。逆に言えば、有用じゃない神器持ちのクダリは処分される」

「処分って……殺されるってことですか?」

「ああ。『再生の大穴』という場所に捨てられる」

「再生の大穴?」

「そこに放りこまれた物は、存在の全てを創造の力に変換されてしまうらしい」

「創造の力? 『』って、伝聞ですか」

「実際に見たわけじゃないからな」

「『存在の全て』って、かなりヤバくないですか? 本当にそんなことが?」

「信じるも信じないも勝手だが、もし本当だったとしたら? それだけでも、女王に会わない理由としては十分だろう」


 どこまでトウキの話を信用していいのか、タローは迷っていた。

 支配の女王の目的が、有用な神器を集めることだというのは納得できる。しかし、有用ではない神器の持ち主を処分する必要があるのかは分からない。


「でも、どうしてクダリを処分しないといけないんですか?」

「この世界にクダリが現れる度に、創造の力が消費されるらしいんだ。クダリの肉体を構成するのと、神器を生成するのに、創造の力が使われる。多くのクダリが同時に存在していると、創造の力が足りなくなる。だから、処分する。わかるか?」


 トウキの説明にタローは頷いた。一応は筋が通っている。


「どこでそのことを知ったんですか?」

「オレたちは実際に支配の女王に会ったのさ。そこで親切な女王の親衛隊に、真実を聞かされた」

「親衛隊がどうして?」

「そいつは『女王の秘密を知ってしまった』と言っていた。だから女王の意に反してオレたちを逃がすと」

「その秘密って?」


 タローが尋ねると、トウキは一瞬だけハナを見た。

 それにハナは小さく頷いて返す。

 トウキは再びタローに視線を戻して答えた。


「さあ……? それだけは教えてくれなかったからな」


 タローは二人のやり取りには気づかなかったが、トウキが何かを隠していることは察していた。完全にトウキのことを信用するわけにはいかないが、少なくとも女王を信用してはいけないという話は本当のようだと、彼は判断する。


「でも、女王に会わないと元の世界には……」

「会えたって元の世界には帰れないんだから、そんなことは考えるだけムダだ。開き直って、この世界で暮らすことにした方が、まだ現実的だぞ。それか、武力で女王を脅して、秘密を吐かせるか」


 どちらもタローは嫌だったが、しかし何もしないわけにもいかない。今も警備隊はタローとハナを取り返そうとしているだろうし、そうしたら嫌でも女王の元に連れて行かれる。

 一応タローはハナの意見を聞いてみた。


「ハナはどうなんだ? 元の世界に帰りたいのか、それとも……」

「私は……タロちゃんといっしょなら、どこにでも行くよ。ずっと、ずーっと、タロちゃんについていく」


 ハナは本心から言っていた。

 タローは彼女の言葉が素直にうれしい。もう愛の告白を受けたような気分だった。

 トウキは青臭い二人の話を鼻で笑って、タローに対して言う。


「ところでタロー、オレのパートナーに会ってほしい」

「パートナーってクダリの……えーと?」

「マリだ」

「そうでした。マリさん」

「クダリ同士で通じる話もあるだろう」


 ハナはトウキに抗議するように強く睨んでいたが、彼女の視線に気づいたトウキは逆に言い放った。


「分をわきまえることだな。お互いに」


 タローにはトウキがハナに言ったことの意味は分からなかったが、ハナは不服そうに沈黙する。

 トウキは両肩を竦めて、改めてタローに言った。


「ついてきてくれ」

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