ハナ救出作戦
その日の午後、タローは二人の男性警備隊員の訪問を受けた。理由は当然、ハナの救出に関することだ。しかし、彼は訪問を受けた側の身でありながら、警備隊員らの先を制して問いかけた。
「ハナは見つかりましたか?」
「いえ、残念ながら……」
あからさまに落胆するタローに、警備隊員らは困った顔をする。それでも言うべきことは言わなければならない。
「――ですが、場所は見当がつきます。例の矢文に書かれていた『南の森』とは、エトラ市の南東に広がる、惑わしの森のことです。そこにレジスタンスが潜伏しているという噂は、以前からありました」
「前からあったなら、どうして探しに行かないんですか?」
「危険だからです。惑わしの森は複雑に入り組んでいて、安易に踏み入ると出ることさえままなりません。さらにレジスタンスが潜伏しているとなると、これはもうわざわざ罠にかかりに行くようなものです」
「だったら、どうするんですか?」
タローの声には怒りがこもっていた。
警備隊員らは真顔で答える。
「現在、作戦を練っているところです。どうかタロー様におかれましては、ただ我々を信用して、軽率な行動を慎んでいただきたく存じます」
ハナを連れ去られたのに信用できるのかと、タローは声には出さなかったが、不満に思っていた。
それを知ってか知らずか、警備隊員らは重ねて警告する。
「とにかくタロー様には、一刻も早く女王陛下にお会いしていただきます。ハナ様をお助けするためにも。女王陛下が勅命をお下しになれば、動かぬものはありません」
そんなに悠長に構えていて大丈夫かと、ますますタローは疑う。いつまでもレジスタンスが待ってくれているとは思えない。
「分かりました」
彼は口先だけの返事をして、その場をやりすごした。
警備隊員らは本心からはタローを信用していない様子で、続けて彼に告げる。
「我々はタロー様の身辺警護におつきします。以後、お見知りおきを」
「ど、どうも……」
予想外の展開にタローは苦笑いした。隙を見て迎賓館を抜け出し、レジスタンスと直接交渉する必要があるかもしれないと彼は考えていたのだが、それが許されそうな雰囲気ではない。
それからはタローが迎賓館の中を少し移動するだけでも、二人の警備隊員がついて歩いた。さすがに部屋の中にまでは入ってこないが、タローが出るまでドアの前で番をしていた。まるで監視されているようで、タローは気に入らなかったが、事実監視されているのだ。
その日一日、タローは迎賓館の外に出ることもできなかった。
翌日、ようやく支配の女王からの迎えの馬車が、迎賓館に到着した。
ハナは帰らないまま、タローは一人で女王に会いに行かなければならない。
タローはハナのことが心配で心配でならなかったが、二人の男性警備員を振り切る力はなく、流されるままに馬車に乗せられた。
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