行方不明のハナ
男性警備員とタローは貴賓席に戻り、改めて大会の試合の観戦を続ける。しかし、タローの内心はそれどころではなかった。試合の内容に集中できない。今はこの大会で誰が勝とうと、もうどうでもいい。ガルニスの勝敗さえも。
男性警備員は険しい表情のタローを慮って言う。
「迎賓館に戻りましょうか?」
「……いえ、ここで待ちます」
「分かりました」
タローはハナが見つかるまで、ここで待っているつもりだった。もしかしたら迷子になっているだけかもしれない。その可能性は低いが、そうであることを彼は願う。
だが、無情にも時は過ぎて、夕方になってもハナは見つからなかった。武術大会も一日目の最終試合を迎えようとしている。
「まだ待たれますか?」
「いや、もういいです」
観念して現実を受け入れた彼は、男性警備員に問いかける。
「ハナがいなくなったのは、レジスタンスが関係しているんでしょうか?」
「そうだと思います。他には考えられません」
どうしてこんなことになったのかと、タローは自分を責めた。あの時、退屈だからと不用意にハナの側を離れたりしなければ、何も起こらなかったかもしれない。
黙って俯いてばかりいる彼に、男性警備員は慰めの言葉をかける。
「ハナ様はきっと無事です。レジスタンスの狙いは神器ですから、クダリ様を粗雑に扱ったりはしないでしょう」
利用価値があるから殺されることはない。そうは分かっていても、それだけでは彼は安心できなかった。殺されないだけで、酷い目にあっているかもしれないのだ。
二人は警備隊の馬車で、闘技場から迎賓館に帰る。タローと男性警備員、二人だけの馬車の中には、重苦しい空気が充満していた。
二人とも自ら言葉を発することができないでいる。ネガティブな話題は口にしたくないが、明るく話をするような場面でもない。
そのまま迎賓館に着いて、男性警備員と別れたタローは、客室で一人になる。
彼は部屋が広くなった感じがして、にわかに寂しさを覚えた。そして何度もため息をついては、窓から夜の街を眺めた。
ハナは今ごろ何をしているのか、それだけが気にかかる。自分にも何かできることはないかと考えるが、今の彼には警備隊が事件を解決してくれると信じて、待つことしかできない。食事を味わう余裕もなく、寝ようと思っても寝つけない。
ただ彼はハナを思いながら、呆然と窓の外ばかり見つめていた。
明け方になって、ようやく眠りについたタローは、太陽が高くなってからようやく目覚めた。彼が部屋から出ると、迎賓館の女性職員が話しかけてくる。
「おはようございます。朝食になさいますか?」
「あの……ハナは見つかりましたか?」
タローは第一に捜索の結果を尋ねた。
女性職員は困った顔をする。
「申しわけございません。私は警備隊の方から詳しいお話を聞いておりませんので。後で確認いたします」
「すみません、お願いします」
彼女に丁寧に謝られて、タローも申しわけない気持ちになる。迎賓館の職員は警備隊員ではないのだから、最新の情報を知らなくて当然だ。彼は焦ってばかりの自分を戒めた。
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