二節棍のガルニス

 静かな対峙の後、ホイッスルが吹かれて試合が始まった。

 ガルニスは棍の先をぐるぐる回転させながら、間合いとタイミングを計っている。

 対するケサロは慎重な足運びで、左右に移動しながら、様子を窺った。飛び道具を持っている風ではない。


 先に動いたのはケサロ。ゆったりとした動きから、急加速してガルニスに迫る。

 それを突きで迎え撃つガルニスだったが、ケサロは片腕で弾いた。カツンと硬質な手応えに、黒いローブの下には防具を隠しているとガルニスは看破する。それは手甲の類だろうと彼は当たりをつけた。あるいは軽量の小盾。

 ケサロは大きく踏みこんで、棍の苦手とする至近距離での戦いをしかけてくる。

 しかし、それはガルニスも承知の上。弱点を克服しないまま戦いに臨む者は、三流以下だ。彼は長短の棍をそれぞれ左右の手に持って応戦する。

 ケサロのファイティングスタイルは拳闘のものだ。身軽な動きでガルニスが振るう棍を防ぎながら、片手で反撃する。

 女性警備員は素直にケサロの技術に感嘆した。


「ケサロ氏、なかなかやりますね。もしガルニスを倒すようなら、この大会のダークホースになるかもしれません」


 ハナは不安になって、彼女に問いかける。


「ガルニスさん、負けそうなんですか?」

「勝負は最後まで分かりません。ただガルニスは少し慌てているようですね」


 女性警備員の言うとおり、ガルニスは防戦一方になっていた。押されるように後退を続けて、反撃にも鋭さがない。

 ハナは祈るような気持ちで、ガルニスを応援する。

 一方でタローはガルニスが手を隠していると感じていた。彼はあえて防戦に回っているのだ。必殺の隙を窺っているとタローは感じた。


 そして、その時が訪れる。ガルニスは棍をつなぐ鎖を、ケサロの右腕に絡めて縛り上げた。左手で長い棍を持ち、短い棍を留め具にして、自らチェーン・デスマッチをしかける。

 それでも殴り合いなら、手甲を装備しているケサロに分がある。ならば。

 当然、ガルニスは素直な殴り合いに持ちこみはしない。殴りかかると見せかけて、ローキックでまず足を奪いにかかる。左手に持つ棍を押したり引いたりして、ケサロの動きを制御し、バランスを崩させる。そして彼のガードの隙を巧みに突いて、強烈なパンチやキックを打ちこむ。

 圧倒的だった。ガルニスは素手でも強い。

 先ほどまで彼を応援していたハナは、急にケサロが哀れになってきた。もう勝負はついたも同然だ。

 間もなくホイッスルが鳴らされて、試合終了。

 だが、ガルニスの顔に勝利のよろこびは無かった。

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