迎賓館での一夜

 その後、ハナとタローは迎賓館の中で一日を過ごした。

 迎賓館の敷地内には様々な庭園があり、その中には和風の庭園もあった。食事にも和風のものがあり、コメやモチ、ミソといった普通名詞が通じる。また日本、中国、インド、アジア、アラブ、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカという地域名も伝わる。

 このことにタローは感動していた。迎賓館の者たちは彼の反応から、「クダリ」が騙りではないことを確信する。

 一方でハナの方には、そういう反応がなく、迎賓館の者たちは彼女を怪しんだが、タローは重い記憶喪失なのだと懸命に訴えて、彼女を庇った。


 夜になって、ハナとタローは同じ部屋で眠りにつく。

 自分のベッドの上で仰向けになったハナは、タローに改めて自分の不安を伝えた。


「タロちゃん、私……感じるの」

「何を?」

「女王様の気配っていうのかな? そういう感じのを」

「どんな感じなんだ?」

「……ちょっと怖い。とっても大きな存在。私なんか、ちっぽけな小石みたい」

「だから不安だった?」

「そうなんだと思う」


 彼女には超能力でもあるのだろうかと、タローは考える。記憶を喪失して異世界に飛ばされるということがあるのだから、もう何でもありのような気がしている。神器なんてものを生み出すのだから、不思議な力に目覚めないとは限らない。

 ハナは自分の気持ちを理解してもらえるか心配して、タローに問いかける。


「信じてくれる?」

「どうだろ……オレには全然わかんないからなぁ」

「だよね」


 少し声を落とした彼女に対して、タローは正直に言いすぎたと反省した。


「まだ女王様に会えるまで、ここで何日か待たないといけないみたいだし、それまでに気持ちの整理をしておけば大丈夫だよ」

「うん……」


 彼は精いっぱいフォローしたつもりだったが、ハナは浮かない表情で気のない返事をする。初めて会った時は明るく元気だった彼女が、今は暗く沈みがちなことを彼は寂しく思った。

 このことで長々と話し合っても、良い方向へは進展しないだろうと、タローは話題を変える。


「そう言えば、ガルニスさんは武術大会に出るって言ってたよな」

「そうだね」

「大会って、いつだろう? もし開催が近いなら、応援に行けるかも」

「武術大会って、みんなでケンカするんでしょ? 何でそんなことするんだろ……。怖いよね」


 しかし、彼の試みは失敗した。そもそも「戦う」ということへの反応が違う。

 強さを求めて人と競い、上を目指すことをタローは「カッコイイ」と思うが、ハナはそうではない。


「誰よりも強くなりたいから。オレたちも、ガルニスさんには何度も助けてもらったじゃないか」

「そうだけど。だったら、悪い人とだけ戦えばいいじゃない」

「まあ、それはね……」


 彼女はナーバスになっているのかなと、タローは閉口した。

 彼女の言うことも間違ってはいない。武術家よりも警備隊で働いていた方が、世のため人のためなのかもしれない。

 どうも噛み合わないなと、タローは再び話題を変えた。


「明日は街に出てみよう。ジッと待ってるだけじゃ、気が滅入る」

「うん……ありがと、タロちゃん」


 ハナは素直に感謝の言葉を彼に告げる。

 気持ちが伝わったと感じて、タローは少しうれしかった。

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