しばしの滞在

エトラ市警備隊

 船は予定より遅れて、少し暗くなった時間帯にエトラ市の港に着いた。

 下船したタローとハナは、ガルニスの案内で市内の宿を探す。そして、港から少し離れた場所の宿で、一夜を過ごすことにした。

 宿には空き部屋がなく、今日だけは三人で一つの広い部屋を使うことに。

 宿の大部屋に入ったガルニスは、クダリの二人に告げる。


「明日、三人で市内の警備隊の詰め所に行こう」

「詰め所で何をするんですか?」


 タローの質問に彼は一つ頷いて答えた。


「あんたら二人がクダリだと説明して、女王の城まで護衛してもらう。話がつけば、オレはお役御免だ」

「ありがとうございます。今までお世話になりました」

「いいってことよ」


 深く頭を下げるタローに、よしてくれとガルニスは苦笑い。

 一方でハナは露骨に残念がる。


「えぇ、そんなぁ……」


 彼女は真剣な態度でガルニスに頼みこんだ。


「あの、ガルニスさんも女王様と会う時にいっしょにいてくれませんか?」

「そうしてやりたい気持ちはあるが、そもそもオレの目的は武術大会に出ることだ。あんたらの護衛は、そのついでだって言っただろ?」


 彼の返答を聞いた彼女は、無言でむくれる。

 タローはそんなに心細いのかと眉をひそめた。


「ワガママを言うなよ」

「……でも、嫌な予感がするの。だんだん大きくなってる」


 ハナの不吉な発言に、タローはますます困った顔をする。


「大きくって、嫌な予感が?」

「そう」


 深刻な面持ちをする彼女の不安を、どうにか払拭できないかとタローは考えたが、彼にはガルニスのような力はない。


「何が不安なんだ?」

「……分からない」

「なるようにしかならないさ。気楽に行こう」


 タローはそう言うしかなかった。感覚的な問題は、いくら話しても解決できない。強く説得しても、心を動かせなければ無意味だ。





 翌朝、三人は市内にある警備隊の詰め所に向かった。その受付で、ガルニスはハナとタローがクダリであることを報告する。


「クダリ……ですか? この二人が?」

「そうだ。女王様の所まで案内してやってくれないか?」


 軍服のような制服を着た警備隊の受付の女性は、ハナとタローをジッと観察した。そして再びガルニスに視線を戻して話を続ける。


「確かに黒い髪ですね。服装も変わっています。神器は?」

「初めから持っていなかったそうだ。だから……レジスタンスにでも持ち去られたんじゃないかと」

「そうですか……。分かりました。後は私たちにお任せください」

「よろしく頼んだ」


 警備隊の女性と話を終えたガルニスは、ハナとタローに向き直って別れのあいさつをする。


「それじゃ、オレの役目はここまでだ。達者でな」

「さようなら、ガルニスさん」


 口では別れの言葉を告げながらも、名残惜しさを隠しきれないハナに、タローは眉をひそめた。

 ガルニスも彼女に注意する。


「おいおい、そんな顔をするもんじゃないぞ」

「はい……」


 しかし、返事には元気がない。

 そんなにガルニスといっしょが良いのかと、タローは心の中で反感を抱く。いくら自分が頼りないからって、そんなにあからさまな態度を取るのかと。

 だが、彼には堂々と「オレを頼れ」と言う度胸もない。不満ばかりが募る。

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