船上の決闘

 ガルニスの得物は二節棍、対するカッターはサーベルとレイピアの二刀流。リーチではガルニスに分があるが、手数ではカッターに分がある。

 お互いに距離を測りながら、相手の出方を探る。ガルニスはリーチを活かした先制の一撃を狙い、カッターはそれを往なしてからの反撃を狙う。


 緊迫した空気。だが、時間はガルニスの方に有利に働く。貨客船は速度こそ落としているが、少しずつ陸に近づいている。船の到着が遅れていれば、何かあったと判断して海上警備隊が動くだろう。焦らなければならないのは、レジスタンスの方だ。


 そしてガルニスの予想どおりに、カッターが先に動いた。

 ガルニスは踏みこみの瞬間を狙ってタイミングを合わせ、短い棍の先端をカッターの脳天に振り下ろす。それをカッターは横に跳んで避けたが、ガルニスは片手で長い棍の石突きに触れて、短い棍の軌道を変えた。

 テコの力と遠心力と回転力で、短い棍が背後からカッターを襲う。

 しかし、会心の一撃とはならない。カス当たりだ。カッターは加速して、ガルニスとの距離を一気に詰め、背後からの攻撃のダメージを最小限に抑えていた。彼は同時にレイピアでの突きを繰り出して、反撃に出る。

 ガルニスは後退しながら強く棍を引き、石突きを操って、カッターの背後を狙った攻撃を試みる。


 技の応酬の結果はガルニスの勝ちだった。カッターは多節棍との戦いに不慣れで、どこからどのような攻撃が飛んでくるかを予測しきれなかった。側面から寄せられる長い棍をサーベルで弾いても、その先端の短い棍がぐるりと回って、死角から襲ってくるのだ。

 背面に重い一撃を受けたカッターは息が詰まる。

 その隙をガルニスが逃すわけもなく、長い棍の連続突きを食らわせる。

 勝負あった。カッターは大きく後退して、部下に呼びかける。


「撤退だ! 撤退!」


 レジスタンスは気絶した仲間を回収して、貨客船から飛び降り、小型船に移った。

 海賊行為をしかけてきた割には、人質を取るようなこともなく、妙に潔い連中だとガルニスは感心する。


 小型船は貨客船から離れて、南方へ遠ざかる。

 レジスタンスの脅威は去り、平穏を取り戻した貨客船は、改めて東に加速する。


 ガルニスは一つ息をつくと、船内に戻ってハナとタローの様子を見に行った。

 船内では客室に避難していた人々が、ぽつぽつと廊下に姿を現しはじめていた。

 室内に閉じこもっていたハナとタローも、外の空気の変化を感じ取って、ドアの前に積み上げた家具や荷物をどかす。

 その最中に、ガルニスが二人のいる部屋を訪れて、ドアを叩いた。


「タロー、ハナ、無事か?」

「はい!」


 タローとハナは同時に返事をする。

 ドアを開けて室内に入ってきたガルニスに、タローは心配顔で問いかけた。


「海賊は?」

「俺が追い返した」


 ハナは両手を上げてよろこびを表す。


「ワァオ、さっすがぁ! 世界一の武術家ですね!」


 ガルニスは眉をひそめて苦しい笑みを浮かべて見せた。


「まだ世界一じゃないっての。あんまり持ち上げてくれるなよ。相手が決闘で負けを認めて、潔く引き下がってくれたおかげでもある」

「海賊なのに?」


 驚いた顔をするタローに、ガルニスは真剣な表情で告げた。


「連中の正体はレジスタンスだった。クダリを狙ってきたんだ」


 それを聞いたハナとタローは、にわかに表情を曇らせる。

 ガルニスは続けて警告した。


「大陸に着いても、油断するなよ」


 二人は不安を胸に無言で頷いた。

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