武術の達人

 三角帽を被り草色のコートを着た海賊たちのリーダーが、大声を上げて乗客や船員たちを脅す。


「おうおう、死にたくなけりゃ金目の物を出しな!」


 乗客と船員たちの一部は、慌てて船内に引き返した。


「おい、こら、逃げるんじゃねえ! 殺すぞ!」


 それを見た海賊たちのリーダーは声を荒らげるが、止まる者はいない。中にはパニックのあまり、海に飛びこむ者までいる始末。

 タローとハナも騒ぎを聞きつけて甲板に出ていたが、人の流れに押されて、船内に押しこまれた。

 海賊たちのリーダーは舌打ちして、襲撃の号令をかける。


「あーもう、しょうがねえ! テメーら、やっちまえ!」


 それを受けて海賊たちはサーベルを振り上げ、ときの声を上げて乗客や船員たちに襲いかかった。

 しかし、この現場を黙って見ているガルニスではない。彼は今の今まで船酔いしていたことなどさっぱり忘れ、長短の二節棍を振るい、海賊たちに逆襲する。まず船内に下りようとしている海賊たちを、背後から叩きのめして一撃で気絶させる。

 だが、何人かは既に船内に侵入してしまった。

 クダリの二人に万が一のことがあってはいけないと、ガルニスは甲板にいる海賊のことは放って、まず二人が逃げこんだであろう客室を目指す。彼は背後から追いかけてくる海賊たちを撃退しながら、自分たちが取った客室に踏みこもうと、ぐっとドアを押した。

 ところが、カギをかけられている。

 ガルニスはドアを叩いて、中の二人の無事を確認した。


「タロー、ハナ! 無事か?」

「ガルニスさん?」


 返事をしたのはハナだった。


「ハナか! タローもいるのか?」

「はい、います!」

「よし! 騒動が収まるまで、絶対にドアを開けるんじゃないぞ!」

「ガルニスさんは!?」

「俺は海賊どもをぶちのめしてくる!」

「わ、分かりました」


 話を終えたガルニスは、自ら海賊たちを殲滅しに動いた。船内を逆走して、侵入してきた海賊を叩き伏せ、突き飛ばし、払い倒す。

 二節棍は単純な振り回しのリーチでサーベルに勝る。連結部で折れて曲がるので、一本の槍や棒のように押し止めることが難しい。また叩きつけや振り払いを止められたら突きに転じるなど、多様な攻撃ができる。

 それは同時に、技術を身につけるのに習熟を要するばかりか、実戦でとっさの機転までも求められるという、扱いの難しさと表裏一体。なまじ攻防で選べる手が多彩なばかりに、どの状況でどの手を打つかという判断を誤ると、脆さを露呈する。

 そのため素直に剣や槍を振るった方が、単純に早くて強いというのも、また事実である。

 だが、ガルニスは熟練の武術家だ。世界一を目指しているというのは、嘘でもなんでもない。ただ数に任せて攻めかかるだけの者では、彼には敵わない。


 ガルニスは勢いのままに海賊たちを蹴散らして、再び甲板に飛び出した。

 船を守る護衛も少なく、乗りこめた以上は楽勝だろうと高を括っていた海賊たちのリーダーは、目を剥いて驚く。


「キサマ、何者だ!?」

「知りたきゃ答えてやる! オレは武術家のガルニス! その小さい脳ミソにしかと刻んでおけ!」

「何だと!? この野郎!!」

「そうイキるなよ。中の連中は粗方オレが片づけた。このまま全滅したくなけりゃ、おとなしく海に帰るんだな!」

「ふざけるな! 俺はレジスタンスのカッター、キサマに決闘を申しこむ!」

「ほう、レジスタンスは海賊業にも手を出したのか」

「俺たちの真の目的はクダリだ! この船に乗っている二人のクダリを差し出すなら見逃してやろう!」

「誰が海賊の話なんぞ聞くか!」

「後悔するなよ! 野郎ども、こいつは決闘だ! 手ェ出すんじゃねえぞ!」


 レジスタンスは海賊を装って、クダリを誘拐しようと企んでいたのだ。

 クダリの護衛の武術家ガルニスと、レジスタンスのカッターは、甲板の上で一対一の決闘をはじめる。

 カッターの部下たちは一斉にサッと下がり、遠巻きに二人の決闘を見守った。

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