襲撃

 馬車はクンダ町を目指して、休憩所を出発する。

 しばらく街道を進んでいると、低いバリケードが道を塞いでいた。バリケードは膝ぐらいの高さしかないが、そのまま馬車で進むことはできないので、どうしても一度停めなければならない。

 御者もタローもガルニスも、ここで襲撃があると予想する。

 御者が馬車を停めると、まずガルニスが馬車から降りた。彼は鎖で繋いだ長短の二節の棍を持って、馬車の周囲を調べ警戒する。

 ガルニスが馬車の裏に回った直後、馬車の前方の茂みの中から、二人組の男が飛び出した。覆面で素顔を隠している彼らは、脇目も振らずに真っすぐ馬車のドアに向かって走ってくる。

 ガルニスは足音から気配を察知して回りこみ、二人の行く手を阻む。そして棍を振り回して迎撃。遠心力で勢いのついた棍の先が、不審者の一人の脳天に直撃し、一撃で昏倒させる。その間に接近してくるもう一人に対しても、棍の持ち手を返して脇腹を厳しく突いた。こちらも一撃で気絶。


「あー、やっちまった」


 戦いが終わった後でガルニスは失敗したと天を仰ぐ。軽く痛めつけるはずが、つい全力で打ってしまった。意識がなければ、話を聞き出すことができない。襲撃者は何者なのか、襲撃の目的は何だったのか、知りたいことは山ほどあったのに。わざわざ襲撃者の回復を待ってやる余裕はないので、今は放置していくしかない。

 とりあえず彼はバリケードを退かすことにする。


「馬屋のオヤジさん、手伝ってくれよ」


 彼は御者を呼んで、ともにバリケードを道の脇に片づけた。

 襲撃者は倒れたが、タローとハナは恐怖が収まらず、まだ馬車の中で身を寄せ合って震えていた。

 そこにバリケードを片づけ終えたガルニスが、愚痴をこぼしながら戻ってくる。


「やれやれ。あいつら、面倒なことをしてくれたもんだ。クダリのお二人さん、もう大丈夫だぞ」


 やっとタローとハナは安堵の息をついたが、まだ二人とも心臓が早鐘を打って落ち着かない。ゆっくりと馬車が動き出して、速度を上げてから、ようやく平常に戻る。


 タローはガルニスに問いかけた。


「さっきのが、レジスタンス?」

「おそらく」

「どうしてオレたちを襲うんですか?」

「それは奴らに聞いてくれ」

「だって、あいつらが神器を持っていったなら、今さらオレたちに用なんかないはずじゃ……」


 ガルニスは少しの間を置いてから答える。


「神器の使い方が分からないとか、そんなところなんじゃないか? 神器はクダリのものだからな。本人にしか使えないということも、珍しくないと聞く」

「そうなんですね。私たちの神器って、どんなのかなぁ」


 のん気な声で言うハナに、タローは脱力した。彼も神器のことは気になるが、今は支配の女王の元に向かい、神器を取り戻すために協力してもらうことが一番だ。それから記憶を取り戻して、元の世界に帰る。

 先のことを考えて、窓の外を見つめる彼の目に、港町が見えてきた。

 あれがクンダ町。ここから一行は船で東へと渡ることになる。

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