同じ境遇

 少女は少年を見た瞬間、自分が探している人は、まさにこの人だと思った。彼女は少年の反応を窺いながら尋ねた。


「あの……あなたは誰ですか? ここがどこだか知ってますか?」


 それを聞いた少年は驚いた顔をした後、申しわけなさそうに言った。


「悪いけど、オレにも分からないんだ。自分の名前も思い出せない」

「あっ、そうなんですね……ごめんなさい」

「君こそ、誰?」

「私も分からないんです。自分のことも、何もかも」


 二人はお互い同じ境遇にあることを察した。二人とも心細く不安だったが、一人でないことはありがたかった。

 少年は遠慮がちに、自分から少女に申し出る。


「よかったら、いっしょに行かない?」

「どこへ?」

「とりあえず、どこか……人のいる所」


 二人とも行く当てもなく、道も知らない。旅の相方としては、この上なく頼りない存在。それでも少女は頷いた。


「そうだね。一人より、二人がいいもんね」


 きっと二人なら何とかなる。二人とも小さな希望を胸に歩き出した。



 少年と少女は石の野道を伝い、降臨の地がある丘から下りる。その道中で、二人は濃淡まばらな石の屋根が並ぶ町を発見した。人がいることを確信して、二人は喜ぶ。


「行ってみよう」

「うん!」


 少女は明るく頷いたが、少年には懸念があった。彼の記憶にある「町」には、石の屋根などない。高いビルが一棟も見当たらないことも奇妙だった。

 ここは外国なのではないかと、少年は予想する。彼には過去の記憶はなかったが、それでも常識だけは知識として残っていた。

 一方で少女は何の疑問も抱かない。二人とも記憶を失っているのは事実だが、その知識量には明らかな差があった。


「大丈夫? 顔、なんか暗いよ」


 少女は少年の顔を覗きこんで心配する。

 少年は胸の内の不安を告げるべきか迷った後、正直に話すことにした。


「言葉が通じなかったら、どうしようかと」

「何で?」

「だって、あれはどう見たって外国の町……」

「そうなの?」

「そうだよ。あんなの、テレビとか動画とかでしか見たことない」


 少女は驚いて目を丸くする。そんなことは全く考えもしていなかった。


「そうなんだぁ……。でも、私たちは普通に話してるよね?」

「それは……同じ国の人だから」


 髪と肌の色、言葉が通じること、制服を着ていることから、少年は少女を異国の者だとは考えなかった。


「うーん……私たち、どうして外国に来たんだろう?」

「そんなの分かんないよ。ああ、もう、記憶さえ確かなら」


 少年はますます不安になって、愚痴をこぼす。

 そんな彼を少女は勇気づけた。


「とにかく町に行って、人と話してみて、それから考えたらいいんじゃない? ここでジーッとしてたって、なんにも分かんないんだから」

「あ、あぁ、そうだな。そうしよう」


 二人は改めて、眼下に見える町へと歩き出す。

 少年は少女といっしょで良かったと、彼女の存在を心強く感じていた。

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