旅の章

降臨、そして旅立ち

引き合う者たち

 少女は一人、荒野にいた。雲が流れる晴天の下、紺の衣服を身にまとい、長い黒髪を風になびかせて。彼女は自分が何者なのかも、これからどうするべきなのかも分からず、ただ立ち尽くしていた。

 気がついたら、ここにいた。彼女に分かることは、ただそれだけだった。


 彼女が最初に思ったことは、「人と会いたい」だった。何となくではあるが、会いたい人のイメージは浮かぶ。それは黒い服を着た、黒い髪の男の子。

 どうしてそんなイメージがあるのか、彼女自身にもよく分からない。もしかしたら記憶を失う前の、大切な人なのかもしれない。恋人、兄か弟、友達、そんな関係の。

 少女は歩き出した。イメージだけの、名前も知らない少年の姿を求めて。ただ直感に導かれるままに。





 同時刻、少年が一人、荒野にいた。晴天の下、黒い衣服を身にまとい、その身に風を受けながら。彼は自分が何者かも、これからどうするべきかも分からず、ただ立ち尽くしていた。

 気がついたら、ここにいた。彼に分かることは、ただそれだけだった。


 彼が最初に思ったことは、「人と会いたい」だった。とにかく誰でもいいから、話ができて事情を理解してくれる人が欲しい。ここがどこで、自分が何者なのか、何一つ分からない不安な気持ちを解消してほしい。

 そう願って、彼は人の姿を探した。





 二人が出会うのは必然だった。少年と少女は同時にお互いを発見する。

 お互いに驚き、とまどい、勇気を出して声をかける。そうして二人は知り合った。





 ――この荒野は「降臨の地」と呼ばれている。

 小高い丘の上にあり、どこからともなく、人や物が流れ着く場所。伝承によると、風に招かれた客人が、天から落ちてくるという。

 神聖な場所とされており、あまり人が近づくことはない。

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