第7話
村に着くと村人が逃げ惑っていた。【カーマ】と看板が掲げられてあった大きな門は炎に包まれていて、家にもその炎は移っている。そして、村のあちこちで銃声が聞こえた。
「ジャックさん! 大変なんです! 村が盗賊に襲われて……!」
「敵はどっちだ!!」
「あっちです! しかし数が多い! あなたも逃げるべきだ!」
「俺はいい! お前らは死んでねえ内に早く行け!」
俺は避難者にそれだけ言うと拳銃を片手に進み始めた。すぐに、銃弾が俺のすぐそばを弾き飛ばす!
俺は木造の建物を遮蔽物にして隠れると、そこには先客が居た。陰湿な顔をした酒場の店主だった。彼は散弾銃を抱えて襲い来る銃弾から隠れている。どうやらここは酒場だったようだ。
「おいジャック! 帰って来るのが遅えぞ!」
「悪いな! ちょいと死に損なっていたところだ!」
「そんなことはどうでもいい! 手を貸せ! 味方は全部で十五人! 向かいの建物には味方が三人居る。ライフル一挺に拳銃二挺だ。こっちの建物には裏口とここで二人、お前を入れたら三人!」
「残りの十人は?」
「五人は避難の護衛、もう五人は背後からの奇襲の警戒で後方に配置している!」
店主は時々顔を出して散弾銃をぶっ放す。その度に悲鳴が向こうの方から聞こえていた。今まで銃を撃っている姿を見た事がなかったが、かなりの腕利きだったらしい。
「敵の数は?」
「ざっと五十人ってとこだ。恐らく飢えて村を棄てた連中だ。銃を武器にしているが、殆どの奴らはまともに当てられちゃいない! それに、三十人ぐらいは火炎瓶や鈍器で武装している!」
「つまり有象無象のクソったれどもという事だな? よし待ってろ、ケツの穴を増やしてくる!」
俺は身を乗り出すとすぐに銃弾が殺到する。しかし、どれも俺には命中しない。俺は拳銃を両手で構え、見える人間を片端から撃つ。六発中全弾命中し、六人が倒れる。……これ以上殺しはやりたくない為、急所は外している。
そこまでやると、店主が俺を遮蔽物へ引きずり込む。瞬間、俺の居た場所を銃弾が貫いた。
「馬鹿野郎、話は最後まで聞け! 全員が素人じゃねえ、一部に腕利きが居やがる! そいつに気をつけろ!」
「結局のところアンタは俺に何をしろって言うんだ!」
そう怒鳴りつけながら、俺は弾丸を一発一発抜いていき、また装填していく。
「ここの村は大通りに沿って家を建てている。つまり窓だの何だのをぶっ壊して家の中を通っていけば、死なずに済む可能性が高い! ジャック、お前は力もあるし腕も立つ! 奴らの側面に回り込んで攪乱して来い!」
そういうと、店主はカウンターの方を指さす。そこには火炎瓶が三本と、マッチ箱が置いてあった。俺は無言で頷くと、それらを回収して、手始めに酒場の窓をぶっ壊す。
「昔貰った宿代から引いといてやる!」
「ふざけるな! 全部返して……いや、好きにしろ」
「なんだって⁉ ッ、畜生、バカスカ下手な弾撃ちやがって!」
酒場を出て、隣の家に辿りつく。家に入り込むと、俺は更に窓をぶち壊してそこから飛び出る。道中、鈍器を持った盗賊に遭遇する。盗賊はやせ細っており、こちらの姿を認めるとすぐに細腕を振り回してやって来たが、俺の剛腕パンチを顔面に叩きこむと倒れた。三人に囲まれても、攻撃を躱し、片端から沈めていく!
そして、とある建物から飛び出した時点で、俺はその隣の建物に人が集まっているのに気付く。どうやら、奴らが拠点にしている場所の様だ。俺は静かに忍び寄ると、窓を叩き割り、火炎瓶を投擲する! 中から瓶が割れる音が聞こえると、悲鳴と共に盗賊たちが飛び出してくる。俺はすかさず飛びかかると、盗賊たちを殴り飛ばしていく。……悪党であることを止めた俺にとっては、久々に本気で暴れているが、それがなんとも言えない快感だったことには気付かないフリをしておく。
火を付けた家に飛び入り、そこで逃げ損なっていた奴を引きずり出す。そして、顔面を殴打して歯を砕くと、放置した。
酒場の方から怒号が聞こえる。どうやら、火が付いたのを見て攻勢に出ようとしているらしい。正面の戦線に盗賊が釘付けにされている今なら、俺は暴れまわれる。俺は大通りに飛び出す。すると、向かいの建物や、路地にも敵が集まっているのを認めた。こちらには気付けていない。俺は火炎瓶を投げつけつつ、銃を持っている盗賊の肩をぶち抜いていく。そして、全弾を消費すると、俺は元居た場所に引き返そうとする。────その時だった。
ズドンと、自分の胴に衝撃を感じた。俺は何が起きたのかを察することも出来ず、ただ倒れる。腹のあたりがやたらと熱い。何が起きたかと俺が腹に触れると、そこにはぬらりと液体が零れているのを感じた。
「う……ぐ、ぅ」
撃たれた。恐らく例の腕利きだ。ライフルで俺のことを射貫いたらしい。俺は撃ってきた方向を見る。そこには二階建ての建物があった。そして、二階部分から銃身が飛び出ているのが見える。……どうやら、俺はここで死ぬらしい。酒場の方を見る。ライフルを持ったスティーブが駆け寄って来るのを遠くに見る。とても間に合わないだろう。
ふと、ジョンとアリシアの姿を思い浮かべる。あいつらには本当に悪いことをした。いくら償っても償いきれないだろう。俺は、俺は……。
────まだ死ねない。そう思ったと同時に、俺の視界に影が差し込んできた。何かが夕日を遮っている。何が遮った? 俺が顔の向きを変えると、本来ライフルの盗賊が見えるはずの視界が、逞しい少年の身体で埋まっていることに気付いた。
「────ジョン⁉」
「絶対に死なせない」
後方から聞こえたその声はジョンのものではない。綺麗なソプラノボイス。アリシアの声だった。聞こえたと同時に銃声が轟く。やがて、ジョンが俺の目の前を退くと、その先にある窓からライフルが転げ落ちていくのを見た。
「あなたを殺すのは私よ」
アリシアは敵が他にも居ないか索敵を続けながら、ライフルのボルトを引いた。金属音と共に薬莢が排出される。
「ジャック! ジャック!」
ジョンが泣き叫ぶのが聞こえる。しかし声が鮮明に聞こえない。全身から力が抜けていく。腹を見た。夥しい量のどす黒い血液が止めどなく流れている。奇しくも復讐者に救われたが、しかしこの傷では生きられないだろう。
アリシアが俺の容態を見て驚くと、ライフルを置いて俺に近づく。
「酷い出血、止めないと!」
アリシアは自身の服を破くと、それで俺の銃創を止血する。
「逃げていくぞ!」
そんな店主の怒号が聞こえた気がする。良かった、盗賊たちはこれで、村はもうこれで……。瞼が重くなる。もう眠ってしまいたい。それに気付いたジョンが泣き叫びながら何度も俺の名を呼ぶ。
「ジョン」
「……! ジャック?」
俺はジョンの右手を持つと、それを開く。そして、そこにずっと連れて歩いていた銀色の相棒を乗せて、握らせた。
「ジョン、お前は本当に優しい男だ。薄汚いクソ野郎の俺に、そんなに涙を流してくれるんだな……」
最後の気力をふり絞る。
「力は、人を傷つけることの方が多い。銃だってそうだ。コイツは、人を殺すために作られた武器なんだ」
ジョンは俺の目を見て、真剣に頷いてくれる。
「だが、そんな力も使い手次第だ。俺は、誰かを傷つけることにしか使えなかったが……っ! グぅっ」
「ジャック!」
痛む傷に絶え、何とか言葉を紡いでいく。最も言いたいことをジョンに伝える。
「ジョン……、お前ならきっと、この力も誰かを守る為に使えるはずだ。誰かを守れる優しい守護者に、お前はなるんだ」
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