世界中の誰よりきっと。@円谷華

 わたしの気持ちとは裏腹に、街が黄金色に染まっていく。


 そこにぽつりぽつりと雨が降ってきた。


 偽物の雨みたい。


 狐の……。


 惨めな気持ちを膨らませるみたいで、本当に嫌になる。




(あら。何を泣いてるのかしら?)


「うるさい…お前が何かしたんでしょ…! 裕くんに!」


(…するわけないじゃない。だいたいいくらお願いされても、裕くんの頭にゴール決めるとかしたくないわよ、わたし)


「ばっちり決めたでしょ…!」


(裕くんにむしろゴールをジュバジュバ決めて欲しいくらいよ)


「…そういうのやめて」



 端ないから。


 そういうのだけじゃないから、わたし達。



(ふふっ。だってあくまであなたのお願いに従っているだけだもの。でもプラティニもヘスラーもちょっと古すぎたのかしら…その影響かもしれないわね。ふふ…)



 こいつ、何か楽しそうだ。本当なんなの。



(でも薫とは金銀つけた方がいいわ)



 金銀…? 一番か二番ってこと?



「そんなのもう着いてるから!」


(ああ、そうじゃないわ)


「じゃあ何なのっ!」


(死んだら文句の一つも言えやしないでしょう?)


「…死ぬ? 誰が? 薫ちゃんが? 騙されないからわたし!」


(嘘なんてつかないわ。なら何故裕くんは走ったのかしら?)


「知らない…そんなの知らない! そ、そうよ、これは明確な浮気…! …浮気…? 裕くんが? 浮あグッッ…!?」



 胸が張り裂けるように痛い、痛いよぉっ! 何これ…!?



(ッ……!)


「ぐっ、と、というかなんでそんなこと知ってるの! 妄想のわたし…のくせ、に…?」



 何故この子までが苦しんでいるのがわかるの?


 そうだ。知らない知識も…過去も未来も…知っていた。


 裕くんがタイムリープしてきたのと、同じ? 



(ああようやく気づけたのね。薫と同じ権能って便利だけど、厄介よね。でも我ながら頭カチカチで頑固なのよね…この頃って。猪突猛進のくせに臆病というか、視野狭窄のくせに嫌なことからすぐに目を逸らして選択ミスするというか…ほんと死にたくて嫌になるくらいのわたしね)



「……華ツー? もしかして、華ツーなの?」



 裏切った…わたし?



(…ふふっ…いいえ、華ファーストよ、私。お久しぶりね。華ツー。また昔みたいに恋の話に花を咲かせましょう)



 イマジナリー華改め華イチは、そんなことを言って、楽しそうにくすくす笑った。


 どうなっちゃってるの、わたし…?



「ぁは、はは。こんなのショックで、ショックが聞かせてるだけ…! それだけ、それだけだよッッ!」

 

(弱気なあなたは知っているわ)


「……そう、弱気なのは知ってる。それに知ったところで無駄なんだけど……ぇ、今の…わたし…?」


(そうよ、華ツー。遠く眺めるだけだった貴方に力を与えたわ、私)


「んむ〜〜! いい加減にして! 華ツーじゃないから! わたしはわたしだからっ! わたし!」



 もう何なの! だんだん腹が立ってきた!



(あら、酷いわね)

(昔むかーし、お話相手になったじゃない)


(裕くんと仲良くなる為の勇気もない貴女の)


「黙って!」


(ふふ。そんなあなたに代わってきたじゃない)

(心の声をつなぐと怖いって言ってたじゃない)

(心臓が爆発するって)

(いっそ誰か代わってって)

(あなたはあの時、私みたいに願ったでしょう?)



 願ってない! 願ってないからっ!



(あの流星群の降り頻る儚い夜に)

(ロマンチックな夜の出来事に)

(1から10まで、全部してって)

(募る想いに胸が張り裂けそうで)

(怖いって)


(あなたはあの白雲母に願ったのよ)


「しろ…うんも…?」



 何…それ。



(裕くんの心、捕まえてあげたじゃない)

(お布団で同衾させてあげたじゃない)

(お風呂に入ってあげたじゃない)

(アルバム塗り潰してあげたじゃない)



「あれはお前の仕業かっ! 裕くんに見せれなかったでしょ!」


 顔だけ塗り潰すなんて、完全にヤバい女じゃない!



(ふふ。邪魔なラブコメ潰してあげたじゃない)


「そんなの無くても勝つからっ! わたし!」


(銀賞は誤算だったけれど…)


「…銀賞…?」


(でも虜にはしたでしょう?)


「虜…? もしかして…あれって…」



 絵を見た裕くんの、嬉しそうな顔が蘇る。


 わたしじゃないって…言おうとして…そこから少し記憶がない。


 あれ、やっぱり夢じゃなかったの…?


 怖い、怖いよぉ…裕くん。



(でも、あれだけお膳立てしても、やっぱり…変わらなかったわね…しかも裕くんがタイムリープしてくるなんて…ね)



 変わらなかった…? してくる…?



「裕くんを呼んだのは…華ツーじゃないの?」

 


(……それは違うわ)



 そう言って、彼女は少しだけ寂しそうなため息を吐いた。

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