出来ちゃった。@森田薫

「処女なら木犀花が力を貸すわ。伽耶まどかの意志なのか、わたしは穢れだとは思わないのだけど、その資格はね? 失ったし、もう無理なのよ。ごめんなさいね? ふふっ」



 ……。



「…一つ聞きたいんだけどさ」


「なによ」


「処女じゃなかったらどうなるの?」


「…? …それだと…この世界から出れても…贋作とはいえ、ループは終わらないのではないかしら…? わたし達観測者が…居なくなるとどうなるのか…神隠し…になるのかしら…? もしかしたら…いえ、そもそも切り倒さないとこの世界から出られないはずよ。まあ、そんな事は良いから早く構え……何そのジェスチャー…?」



 私は自分のお腹に、未來にかかる虹のアーチを描いた。


 まあ、羊水がまだ見ぬ海って感じ?



「今妊娠三ヶ月いぇい⭐︎」


「…………殺す」


「危なっ!? まだ誰がパパか言ってないじゃん!」



 こいつ、躊躇なく斧投げつけてきやがった。はぁ…この秘密は最後まで隠し切るつもりだったのに、やってしまった。


 仕方ないじゃん。


 あんだけ煽られたらさぁ。



「…それはそうね。誰よ」


「ぷっ、そんなの柏木くん以外ありえないでしょ、アンタ馬鹿ぁって危なぁッ!?」



 また斧!? アンタの方がマサカリ似合うでしょうが!



「森田薫、あなたの境遇には同情するわ。おそらくこの世界でも何周もしてるんでしょうし。でもそれとこれとは話が別よ」


「あははは…って少しくらい良いじゃん! 柏木くんとはもう何百回もしてるんだしぃ?」



 弱点とか知り尽くしてるし。まあ、それもこれもアンタを焚き付ける為に明かした真実であり、私の覚悟。



「黙って初めて奪って良いわけないでしょ! 死んで詫びなさい! このレイプ魔! シャァァァアア!!」


「姫も似たようなもんじゃない!」


「全然違うわよッ!」


「私知ってるんだからね! あんなに無茶苦茶したら勃たなくなるんだからッ!」


「それ私じゃないわ!」


「同じでしょ!」


「同じじゃないわ!」



 そうだ! 未來を諦めてでも、お前からその言葉を聞きたかったの、私!



「あははは!! そりゃそうよね! 違うよね! 柏木くんを裏切った女なんだから姫とは違うよね! そんな女のくせに別世界から追いかけて来るとか頭おかしいんじゃない!!」


「ッッ!?」



 こいつは絶対呪いとか関係ない! 元は知らないけど勝つまで勝負するタイプだ! なんて蛇みたいな女!


 …あれ? 


 それ姫もか…?


 まあいいや!



「まーそれに? 私の場合は? 柏木くんに? 呼ばれて? 想われて? ここに生きてるし? 寧ろ柏木くんが用意した檻だし? むしろ監禁されてるって言うか? そこんとこあなたと違うし? いやそれはもう全然違うから。あははは!!」


「ッ、言うじゃない」



 みんなエンドロールに消えていく中、柏木くんも最後まで振り向いてくれなくて、嘘をついてバイバイなんて、今まで言ってきた。


 それはそんじょそこらじゃ足りないくらいの嘘で塗して送り出してきた。



「それとね、私ね、思ってたんだ。この周回の姫は素直で良い子でしょ? 少しやり過ぎだけど、過去一番仲良くなれたんだよ。だから姫なら良いかなって。姫なら柏木くんを支えてくれるかなって」


「……」


「それに……私の生はここで終わる」



 それは受け入れてるんだ。


 例え叶えられないとしても、柏木くんが帰ってきてくれて、心の中準備はしてきた。


 いつもいつも送り出して消えるみんな、私、柏木くん。次々に生まれては消える、その瞬間の感情を留めておきたいのに、無限の諦観が邪魔をしてきた。


 心を毎回殺してくる。


 乾いて渇いて苦しくなる。


 取り繕った笑顔しか、彼の応援しか私には出来なかった。


 そんな私の全てが嘘に塗れていて、いつの間にか、真実を諦めていた。


 ようやくわかった。


 花言葉に真実もあったよね。だから嘘を盾にしたら、記憶を消したんでしょう?


 仕方ないじゃない。いろんな可能性を探してたんだよ、私。


 でも、今世は自分でも期待していたほど、悲哀の感情は生まれなくって、ただ未來から来た彼と歩けて過ごせて楽しかった。


 違うね。


 君が涙をくれたんだ。


 思い出させてくれたんだ。



「…でもね、でも…ね、貴方に会いたかったの。柏木くんに酷いことをした貴方に…あは。最後だけは会いたかったのッ……!」



 キンモクセイくんのおかげかな。


 いや、ギンモクセイくんもだね。


 連れてきてくれて、ありがとう。


 ふふ。でもね、最後にもっかいこいつみたいな力を貸してくれないかな。レーン変えたり、ループさせる力より、余裕でしょ?


 この世界に、多分いて、どっかで観てるんでしょう? 


 だって君の薫りがするからさあッ!


 座席は……くッ、もう、もう諦めるからさぁああッッ!



「あなた、髪の色が…毒! どういうことなの! …まあいいわ。それで?」



 姫の髪色が、金色になった…?


 私は…銀色? でも何だか暗い…?


 何故か無駄に胸が騒ぎだす…あんまり時間ないってこと?


 はん、舐めないでよね。



「命までは取らないけどさあ…こんの機会にッ! 柏木くんに代わってッ! ボコボコにしてあげるからッッ!」



 それにこの外は君の世界でしょ! 私の絵でしょ! こんな贋作女なんかに内側から食い破られて! 負けてんじゃないわよ!!


 私にくれた柏木くんの気持ちを!


 この女に見せつけるんだからッッ!!



「死ねぇぁぁぁ!! この寝取られ寄生獣女ぁぁあああ!!!」



 私はそう叫んで、銀のマサカリを勢いよく投げつけた。

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