イマジナリー華。@円谷華
「よしこい! 華!」
わたしは今困惑している。
「どうした! ネバムーブだ!」
どうしよう。
裕くんがおかしくなっちゃった。
もう一度フリーキックで頭に当てろって言うんだけど…何言ってるかわからないし、理由があってしたくない。
真剣な目をしてお願いするから何かと思えば…でもでもこれは開花したのかも。違うかな。違うよね…
今、学校の校門を出てすぐにある蛇行した遊歩道にいるわたし。
このグネグネした道は、都市計画道路だと裕くんが教えてくれた。速度が出ないようにわざと曲がってデザインされてるって言ってて、暗に夜の速度違反とブレーキとノーヘルの話に持っていこうとするからいつも話を遮るわたし。
その却下した道路沿いの小さな空き地。そこの真ん中で裕くんは背中を向けてポツンと立っている。
美月ちゃんもののちゃんも困惑している。
「……華ちゃん、蹴らないの?」
「黙ってて」
どうしようか考えてるから。
「…華ちゃんがいろいろやり過ぎたからでしょ」
「美月ちゃんが悪いからだよ」
「恋が走り出したら仕方なくない? 止まらないの仕方なくない?」
「そうだけど、人の彼氏に走っちゃ駄目だから」
美月ちゃんっていつの間にか吹っ切れてるんだよね…なんなの。
「あの、姫。それより先輩待ってるです…」
ののちゃんも裕くんを毛嫌いしてたのに、いつの間にか恋する乙女みたいになってるし。なんなの。
「いいの。裕くん、忍耐だけはえげつないから」
「華ちゃん言い方」
裕くんは、今もジロジロ見られながら背中を見せて待っている。わたしが躊躇すればするほどギャラリーが集まってきていて、ソワソワしてるけど全力で動かない姿が可愛い。
「公開処刑みたいです…酷いです」
「……」
確かにそんな雰囲気にいつの間にかなっている。ファンクラブがゾロゾロと集まってきていて、何が始まるのかとみんな期待している。なんなの。
「華ちゃんもさぁ、森田さん見習ってもうちょっと余裕待てばいいのに」
「美月ちゃんは……反省してないのかな…?」
「うっ! し、してるよ、してる! けど可哀想でしょ! あんなとこで身体固めて後頭部晒してたら!」
「周りからめちゃ見られて恥ずかしそうです。可哀想です」
でも…そういえばおかしいな? 確かにギャラリーが集まりすぎていて収集がつかない。なんなの……もしかしてコレ、ののちゃんの仕込み…?
「は、華! 早くしてくれ! というか恥ずかしいだろ!」
「ほらー」
「わたしが解散させるです! 皆さん! 柏木先輩が可哀想なのです! どこか行くです! 姫のシュートは危険が危ないのです!」
んもぉ! やっぱりわたしが悪いみたいになってるじゃん! おかしいよっ!
「んむ〜〜やっぱりなんかイヤっ! 蹴りたくない! わたし!」
「頼むって! 多分思い出せるんだ!」
「何を思い出したいのか教えてくれないもん!」
「な、何でもいいだろ!」
「いくない! なんかやましい感じするもん!」
「や、やましくねぇよ…?」
「ぜーったい嘘! 目がルーレットしてるもん!」
「目がルーレットってなんだよ…失明しそうで怖いだろ…つーか見えてないだろ!」
「わかるもん! そんなに言うならしてあげるけど、愛してるって言って!」
「なっ!?」
ギャラリーは少なくはなったけど、きゃーきゃーと声が上がる。少し恥ずかしい。
「うわぁ…華ちゃんめんどくさい」
「先輩がファンクラブに刺されるです」
「い、いいの!!」
「よくねーよ! それに恥ずかしいだろ! アホか!」
「ア、アホぉなのは裕くんの方でしょ! それにボール当たったら普通記憶飛ばすと思う! わたし!」
「くっ、反論出来ない! …こう、なんというか、あれだ。脳が潤いたいんだよ!」
「脳汁とか怖いよ!」
「の、脳汁?! そっちのが怖いからな! つーか僕もわかんねーんだよ! も、もういい! 病院先に行くからな!」
「あ! まだ話終わってない!」
そのわたしの言葉を無視し、空き地の向こう、病院に向かう道に裕くんは歩いていく。
薫ちゃんのことが心配だと言う。そんなに大したことじゃないって聞いたのに、今日はなんだかずっとソワソワしてた。
「………」
「はー…ほら、行っちゃうよ、裕介くん。華ちゃんも行こ? …華ちゃん…? ひっ!」
「はわわわわ…こ、怖いです…髪がざわざわしてるです…これがヒロイン力…」
「ヒロインじゃなくてメデューサみたいなんだけど…ある意味一緒か…」
「どういう意味です?」
「お子ちゃまはわからなくていーの」
「もうお子ちゃまじゃないのです!」
美月ちゃんとののちゃんが何か言い争っているけど、気にしない。
「…そんなにそんなにそんなに…!」
思い出したいことなんて! 薫ちゃんのことに違いない! いいよ! そんなに当てて欲しいなら当ててあげるもん! 逃がさないから!
来て! イマジナリー華!
「と──ます──へすらぁ
──!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます