プラティニ@柏木裕介

「銀賞…コンクール…」



 獲ったか? いや、獲ってないと思うが、随分と昔過ぎて思い出せない。自分が落ちて落ち込んだことは覚えているが。



「でもあの時かな。絵はもう描かないって言ってた。すっごく上手かったのに。ほんと裕介くんも華ちゃんも才能に執着しないっていうか、簡単に捨てられるんだから…」


「…才能を捨てる…いや…僕に才能なんて…」



 そんなものは僕にはない。


 30歳になってわかってしまった。


 それにどの世界にも上には上がいて、そのさらに上にはまた上がいて。そんなものだった。


 今のアリちゃんの賞賛は、おそらく昔はイケてたとかの、武勇伝的な話の元ネタになり得る話だと思うが、そんな武勇伝の前払いみたいで痒くて辛くて痛い。


 

「でも…その日からだったかな。絵のこと聞いてもまるで反応ないし。裕介くんの方が上手いって言うし」


「そんなこと…」



 いや、まるで反応がない……? 


 執着が無くなる…?


 小学生でそんな簡単にスパッとやめたりするか? 飽きたのならわかるが…あの華だぞ? マフラーとかしこたま編みまくってるんだぞ? もうすぐ15本になるんだが? やっぱり何か別の理由があったんじゃないのか?


 いや…僕もそうだった。サッカーがそうだった。まるでその好きって気持ちが綺麗さっぱりと…



「──くん? 裕介くん! …聞いてる?」


「え…あ、うん…ってかそろそろ離れろよ! 危ないだろ!」


「ええ〜? 少しくらいわけてくれてもいいのにな〜」



 それ才能のことだよな? そうだよな? ないからな? あ、ちょ、く、くんくんすんな! この小悪魔め…! 惚れてまうやろ!



「聞けよ! それにわけるとかじゃ…それより離してくれよ。いろいろ怖い」


「裕介く〜んわたしも怖いよ〜一緒に怒られよ〜よ〜」


「こ、こらやめろ!」



 怖いこと言うんじゃない! 洒落になんないだろ! あ、ギュっとするな! 首に顔を埋めるな! というか匿う話どこいった!



「森田さんは…いいのに…? 神社でのこと知ってるんだよ?」


「んぐ…」


「ふふ…それと思い出したんだ…裕介くんって女の子に強く出れないもん。お父さんが亡くなった時から…だよね。昔から優しかったけど。…ね、ちょっとだけ。ちょっとだけ諦める時間を私にください…お願い…」


「……」

 


 そんなこと言われたら拒否しにくいだろ…というかほんといったい何なんだ。


 僕は未来人だし仕方ないと思ってたが、まるで記憶が封をされてたみたいじゃないか。


 越後屋とアリちゃんに過去と絵とサッカー…というか僕の周りだけなのか? 


 あとで森田さんに聞いてみるか…


 いや…華と三好だけは昔のまま…かなぁ…? 


 あかん、僕の知ってる二人と違い過ぎて判断できない。


 そう考え込んでいると、アリちゃんはいきなりガバッと身体を離して真っ赤な顔でこう言った。



「そ、そんなわけで! 最後にもう一度くらい膝枕してもいいよね?」


「だからよくねーよ!」



 即座に否定するも、アリちゃんは側にあるベンチに僕を連れて行こうとする。強引にグイグイ引っ張っていく。


 するとその時、遠くから何故かフランスの将軍の名を呼ぶ声がした。



「──ぷーらーてぃにぃ───!」



 それは華の声だった。


 そしてそれは華のフリーキックだった。


 華の放つそれはまるで虹のように美しく弧を描き鋭い曲がり方で…あ、こっちくる。


 あかん。


 

「ふふっ、ね、いいでしょ? ッあだ──ッッ?!」



 ボールはアリちゃんの側頭部に見事に突き刺さった。と思ったらそれが跳ね返って僕の顔面に打ち当たった。



「ぁべしっ?!」



 そして二人して地面に倒れ込んだのだった。


 あいつ何でもアリかよ…


 つーかプラティニはそんなに曲んないだろ…ブラフかよ…つい見惚れてノーチャンスだったじゃねーか……


 というか僕、こいつの才能に心が折られてサッカー止めたんじゃなかろうか…

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