銀賞@柏木裕介

 あの日、華を探しに行く前に駅で華を待っていた。


 あまりあの駅で待つのは嫌だったのもあるが、やっぱり気になるから華を探しに行こうとアリちゃんに提案したら、あっさりと断られた。


 アリちゃんはやっぱり何か変で、チョコをコンビニで買い、渡してきた。


 それはまあ遠慮なく受け取った。


 でもそれからフラフラと心配だったのもあるが、離してくれない。


 振り払えばいいと言われるかもしれないが、出来ない。


 昔からそうだが、僕には出来ない。女の子を無理に押すことには何故か抵抗がある。


 というか大分慣れたけど、15歳下は無理だってぇ。



『ムフ、コウシテミタカッタン…ンー…? ン、ん? え、あれ…? なんで裕介くんが…私の膝に…あ、か、固くないかなっ? ないよねっ?』



 ないですとも。


 そうだ。あの日僕はアリちゃんに膝枕されていた。


 ちょっとだけだからと許可をしたものの、ものすごい力で強引にベンチで寝かされ、ぶっちゃけ逃げられなかったのもあるが、柔らかくて、あったかくて、良い匂いだったのは否定しない。


 その時の顔が撮られていたのだ。


 華に追求され素直に感想をゲロると水屋が震えて母さんが呆れていた。素直なのも考えものだなと知った夜だった。



『…ちょっと恥ずかしいけど、少しくらいならいいよ…? 受験終わったし、何か開放感がすごいよね? あれ、き、緊張してるのかな…? 寒いの? 寝ちゃった? 照れてる? 髪…サラサラしてる…むふっ…裕介くん子供みたい………………って夢じゃなーいッ! さ、先に戻るね! くぅ〜〜』



 そう言って我に帰ったアリちゃんは走って駅に消えた。


 それから僕は華を探しに行ったのだ。





 結局あの日のタレコミはファンクラブからの通報だった。この時代でもネットは怖いということを身をもって体験した僕だった。


 正直なところ、こうやってアリちゃんと二人きりで会ってるのもぶっちゃけ怖い。


 散歩中のご老人も無邪気に遊ぶ子供達も、それを見守る大人達すらも怖い。


 今日のことは華には伝えてる。


 OKも出てる。


 大丈夫だと思いたい。


 けど、膝枕はアウトだったろ。タイキックかタイキック相当の罰だろ。やだよ。



「もー大袈裟だよ。今日は大丈夫。華ちゃんののちゃん家に行ってるから。それにね、四六時中嫉妬してたらキリがないと思うよ。高校生、大学生、社会人とさ、女の人がいないところなんてないでしょ?」


「うっ…それは…そうだよな…」


「慣れた方がいいって。絶対。ね? もし見つかっても私が庇うカラ! ね? ネ?」



 力つよ?! またこのパターンかよ! どこに監視がいるかわからないんだぞ!


 ん…? てかアリちゃん…泣いてないか?



「……ほんと、ちょっとだけで…いいから…三好に……されたんだよ…ん、ぐ…ひぐ…裕介くん!」


「うぉ!? 抱きつくなよ! お、おいな、泣くなよ…」



 しかも三好とのことだし、拒否しづらいだろ…ほんまあいつだけは…詳しい内容は聞いてないが、こんな可愛い子に何したんだよ…



「ごめん…受験終わったから…いろいろ気が緩んだからかな…あの日から…昔のこと、急に思い出してきてさ…私の初恋は、裕介くんだったんだよ?」


「…え?」



 それは…バレンタインはそれでか…嬉しいけど…初耳だ。本当にそうか?



「えへへ…告っちゃった……」


「それは…」


「ううん、違うの。聞いて。でもおかしいの。いつの間にか三好に変わっててね。いや変なこと言ってる自覚はあるんだよ…?」



 変わる…またか。あの日の華もそうだし、三好呼びもそうだし、越後屋もそうだった。



「ののちゃんもよく追いかけてたな…ああ、何か変なノートだったかな。そんなの書いてたよ。でも突然華ちゃん推しになってて…あれっていつだったかな…そこから疎遠になって…そんなことを思い出したの」


「…」


「今更…熱が生まれるなんて…何なんだろ…嫌になるよ…裕介くんのバカ…」



 なんでだよ。それは僕のせいじゃないだろ…けどこんな時なんて言えばいいんだよ。



「…あんだって?」


「そうやって逃げるのムカつくから。ふふ…でも答えなんてわかってるからいいんだ…まあ華ちゃんからどうしても逃げたくなったら縋って。いつでも匿ってあげるから」


「言い方」


「あはは…でも…華ちゃんも昔と変わったよね」


「そ、そうか? というかそれよりそろそろ離れよか」



 タイムリーパーよりマシだと思うが…あ、ほら、ご婦人方見てるだろ! ヒソヒソしてるだろ! こういうの慣れてないんだってぇ!



「……裕介くんいない時はいっつも一人で遊んでたし、私達の試合もさ、全然来なくて。唯一来たのは三好が怪我して運ばれた日だけ」


「そう…だっけ。いや違う。離してください」



 いや離れてください。それにあかんこの匂いはあかん。つーか何でみんな同じ香水使ってんだよ! 流行ってんの?



「それにね。ふふ。思い出したの。ほらあの写生大会。コンクールの時の狼狽えた顔」


「…狼狽えた? 誰が?」


「華ちゃんが賞を獲ったでしょ。銀賞」



 いや、獲ってないが…?

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