世界中の誰よりずっと。@柏木裕介

 華は急に手を離し、謝ってきた。



「あ…ご、ごめんなさい…」



 なんだ…? ああ、危険なことをしたことか…



「いや、そんなことはいい。痛いところは? 怪我は? 身体は大丈…平気なのか?」


「う、うん。どこもかしこも大丈夫、平気……ところで…ううん、あの……裕くん、変なこと言うと思うけど…聞いて…欲しいの…」


「だいたいいつもだろ」



 何変なこと言ってんだ。いつも変なのに変とかそれもおかしいだろ。というかその前置き怖いだろ。


 いったい何を言う気だ。


 定説はもう要らないからな。



「そ、そんなことない…と思う…んですけど…? じゃ、じゃあ思い切って言うわね……き、緊張するわね……すー、はー……ゆ、裕くん! す、好きです! キ、キキス…とか…み、見つめあってとか…した、いなって…くらい! び、び、びっくりした…かしら…?」


「……」



 いやしないが?


 いつも通りの…シチュプレイその3だが?


 どもるのも…珍しくもないし。


 お前いっつもガチでデザインしてるじゃない。イタコレベルじゃない。


 幼馴染同士とか、先輩と後輩とか、マネさんと部員とか、チアと応援団とか、お姉さんとショタとか…って誰がチビやねん。


 流石に不倫プレイは断固拒否したが。


 バーターで父娘シチュはさせられたが。


 というかいろいろ様々あれど、最終的に結局S化する癖に。


 罠なんだよな、そのしおらしさは。


 こっちが我慢に我慢を重ね、頭くらくらして襲おうとするも、返り討ちにあうパターンだろ、それ。


 罠だな、罠。


 いつもなら乗るが、今日はあかんからな。



「何言ってんだ…だいたいいつもそんな事言わずにキスしてくる方が多いだろ……ってなんだその顔は」



 口を◇にするとかおかしいだろ。


 それメチャリロの人だろ。閣下だろ。いや、殿下か。いや、部下もか。


 確かに今日は朝から晩までバタバタしていたし、もう階段ダッシュでメチャリロにクタクタなんだが。


 というかメチャリロってなんだ。


 僕も大分と照れてるな…くそっ! 良いように転がされてるってわかっているのに照れてしまう。


 というかなんか頭がぼんやりするな…


 いや、疲れてるのか…そりゃそうか。


 昨日の夜からだもんな。


 糖分摂りたい。アイス食べたい。



「裕くん…好き…です」


「あーはいはい、わかったわかった」



 摂りたいのはそっちの砂糖じゃないんだよ。



「ほ、ほんとなの! だ、大好きなのっ! 裕くんのことがっ! 本当なの…! 信じて欲しいの……貞節、です……」



 定説はやめろっつってんだろ。


 知っとるわ。


 何回言うねん。


 というかいろいろ危ないだろ。


 危ないといえば、さっき怖い目にあったんだったな。なら仕方ないか…


 いや、やっぱり何かおかしいな…? 記憶の…混濁か? アリちゃんと違って、虚ではないが…?


 というか必死過ぎて少し怖い。と思ったらすぐ落ち込むし…シチュプレイにしてはチョイスミスだよな…?


 バトルモノの場合はどんなストーリーだ?


 というかさっき肩車でそれやっただろうが。怖いんだよ、テンションの急激な上げ下げは。



「わ、わかった。信じてる、信じてるよ。疑ってない。というか疑ったらお仕置きなんだろ」


「…お、お仕置き………されちゃうの…?」



 なんでだよ。


 お前ドSだろ。


 これはもうあれか。あれだろうな。


 疲れてんだな。



「はー…受験のストレスを甘くみていた。怖い目にもあったんだ。学校には僕が連絡するから、今日はもう帰ろう」


「う、うん…? でも…」



 華はまだ何か言いたそうだ。


 ナイフか。ナイフだろうな。



「さっきの人も怪我してなかったから大丈夫だ。安心しろ」


「あ、うん。それはどうでもい…ん、んん。ソレハヨカタナー……じゃ、じゃなくって、その……あの…」


 

 違うのかよ…しかも棒読みが酷い。


 全然思ってねーじゃねーか。


 これ言わなきゃ先に進まないやつか…


 ああ、もうわかったよ。言えばいいんだろ。



「…僕も……君が世界中の誰よりずっと好きだって…大切だって…身に染みてわかったよ。だからこんな無茶はもうやめてくれよ。さっきの人とか聞きたいこともあるけど、今はいい。それに一昨日言ったように…定説…通り、赤ちゃん出来てたら責任とるから。不安なのもわかる…とまでは言えないけど、お前を守れるように努力するから」



 そう言って、僕は華の瞳を見つめてキスをした。


 今日は強請ってこないが、髪をいつものように撫でて抱きしめてみる。


 いや、自分からは結構恥ずいな、これ。


 というか家族会議で散々言わされたのに、何度も言わせんなよ。欲しがりか。



「……」


「……っ」



 つーか無反応かよ! 何か言えよ!


 スベったみたいで悲しいだろ!


 一昨日はあんなにプロレス的な小躍りまでしてたのに、女心はやっぱりわからない。


 勇気振り絞り損じゃねーか!


 無茶苦茶恥ずかしいだろ!


 だいたいおじさんとは言え、こちとら魔法使いだったんだぞ!


 このドSめ。


 あかん、こんなん普通に照れるわ。

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