誰がMやねん。@柏木裕介
母校はそれなりに人数の多い高校だった。近隣のだいたいの中学の平均から上位下くらいの成績の子が受ける高校だったのは覚えてる。
合格掲示板の前には結構な人だかりがあってよく見えない。今の身長も手伝って見えにくい。
倍率は知らないけど、こんなだっけか。
そういえばこんなに朝早くに来なかったような気がする。
…中学校に一度集まってから行かなかったっけか? 越後屋も何故かついてこなかったか…? 姫〜って言いながら。
まあ、なんだっていいか。
少しくらい待てば空くだろ。
そう思っていたらグリグリと短髪茶髪頭が僕の股に後ろから捩り込まれてきた。
怖!? 何?! 誰?!
そいつにそのまま肩車されてしまった。
「裕介、これでわかるかい?」
「てめぇ…一声かけろよ…」
やっぱり三好だった。
今日は久々の男バージョンか…落ち着くけど落ち着かない。こいついつか犯罪に走りそうな怖さがあるんだよな…この時代でも問題がチラホラ出てきているが、チューバー的な事件起こしそうなやつというか、狂気臭っていうか。
「ボクのも探して欲しいな。見えるかい?」
「…見られてんだよ。降ろせ。というかお前見えるだろ」
「裕介しか見えないよ」
「そういうのやめろやボケェ」
「堪らないよ」
「いてまうぞワレェ」
「それはわからないけどwktkするね」
くっ、何言ってるかノリがわからんぞ。こいつ…ヅラ取ってやる…あ! こいつめっちゃ強いノリつことる!
しかし、絶対に優しさだけではないことはわかるが、こいつは何を思ってそんなことを…
何かぶつぶつ言ってんな…なんだ?
「ははっ、これで高校では大の仲良しと周知され、腐女子すらも味方につけ、TS転生幼馴染として一気に返り咲き一息に寝取りぃいッッ?!」
「おわぁ!? 危なっ!」
案の定、華から脇腹に彗星をくらった三好。
だがよろけるも、倒れない三好。
僕の彼女がクズを殴ることに躊躇しない件。アニメなんかで見たことあるけど、現実で見るとやっぱりすごいな…
というか体幹すごいなこいつ。主人公かよ。
というか今寝取りって言ってなかったかこいつ。
「これは効くね…ボクが裕介と間女に挟まれてか…ゾクゾクするよ」
「キモいこと言うのはやめろ」
何言ってんだこいつは。入ってこようとすんな。しかも間女って何だ。新しいの作んなよ。
「早く裕くんを返して。手加減したから平気でしょ。もう一度くらう?」
「じょ、冗談じゃないか…は、円谷…さん…いいブロウだった…」
お前のは万に一つも冗談に聞こえないんだよ。
そうして僕を降ろすと、三好は姉、杏奈さんのところに去っていった。どうやら一緒に来ていたらしい。
遠目に僕と目が合ったので、手を小さく振り合った。
口パクで何か言ってるが、わからない。
オ、エ、エ、ア、ア、ア……? そ、れ、で、は、ま、た、かな…? すぐ帰ってったし。でもえらく畏まった言い方…だよな?
まあ、どうしても伝えたいってことではないだろう。
というか、杏奈さん居たっけか。確か…華と三好と越後屋で固まって帰ったような…それから帰りに駅で何故か僕と越後屋の二人になって…先に帰っててって華からメッセが来て…いや、よそう。
いつの間にか俯いていた僕に華が聞いてくる。
「裕くん…もしかして煽ってる?」
「なんでだよ。少しも煽ってねーよ」
「そういうとこだよ」
「どういうことだよ」
「仲良いね、二人…」
「なんでだよ」
「むー。後でお話があります」
「なんでだよ。その圧はやめろ」
いや、わかるけど、とりあえず合格見ようよ。
というか華、お前、めっちゃ騒つかれてるからな。まどかちゃんざわざわ、ってなってるからな。このままだとまた面倒に巻き込まれそうだ。
あのチビなんだってあんなにベタベタと。
ちらほらとそういうの聞こえるし、実際絡んできそうなやつが見受けられるし。
華と付き合うって、そういえばそういう事だったな…誘蛾灯というか。
今世はちょっと規模がアレだしな…
華がアレでアーレーだしな…
高校一年生か…華と付き合って浮かれてのほほんとしてたな…
「身体、鍛えよか…」
また同じことを思うことになるとはな…頑張ろか。
そう思っていたら、華がまた妙なことを小さな声で口にした。
「そっか…次はM…任せて。応援するから、わたし…!」
「…いや、結構です」
お前それ別の意味しか入ってないだろ…いつもいつでも上手くゆくなんて、どこにも保証はないからな。
とりあえず僕は、なんとなくため息を我慢した。
つーか誰がMやねん。
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