ハートを磨くっきゃない。@森田薫
合格発表の次の日。
ギンモクセイくんに背中を預けて考えていた。
みんな受かったようで、何よりだ。
今からの未來に幸あれ。そう思ってもたれていた。
そして、あの日、越後屋ののの慟哭を思い出していた。
◆
久しぶりに来たけど、越後屋本家はやっぱりでっかいなぁ。
武家屋敷みたいな趣きは変わらず、毎回迷子になりそうなくらい広い。
でも何故か越後屋ののは8畳一間に住んでいる。
まあプッチモニなサイズだしね。
座敷童子みたいだしね。
あ、帰ってきた。
「…森田先輩…なんでうちに居るです?」
「なんでって…通してくれたけど?」
「…お母様に何を言ったですか?」
「まあ、同じ趣味のお話をすれば通してくれただけ。もうお母様とはマブだからそんなに気にしないで」
「…まぶ? ああ…マブダチ…あのお母様と…?! やっぱり森田先輩は怖いのです…!」
ふふ。ののの母とは何度も話してるからね。くすぐるポイントはばっちりだからね。
それに私は賢者なの。
北里限定だけど。
ただ、そんな私でもわからないものを見つけた。
「ひっどいなぁ。それよりこれについて教えてくれないかな…?」
私は手品を使って一冊のノートを越後屋ののの目の前にパッと出す。
いつかの彼女は、綺羅綺羅とした目をして嬉しがってくれたっけ…
「な!? 鍵かけてたのです!」
あれ、そっち? あんまり驚いてくれない…? 随分と警戒させちゃったのかな…?
「…そうなの? 机の上にあったよ?」
「嘘なのです!」
まあ、嘘だけど。
鍵? そんなのは私には無駄無駄無駄。
私は大泥棒なの。
間抜けだけどね。
一番大事なものは盗めなかったし、何度も大事な記憶、盗まれてるしね。
ただ、最後に勝てば良いの。
「これはなぁに…?」
「それは……先輩には関係ないのです!」
「ふぅん…」
くしゃくしゃになったノート。
中身は日記だった
おそらく丸めて捨ててからまた拾ったのだろう。
「その軋んだ葛藤は何処からきたのかな?」
◆
「…ゆるひて…もういや…れす…」
「ふふ。こんなに可愛く鳴いちゃって。初めからそう言えば良かったのに」
越後屋…ののはぐでんぐでんになっていた。
この子、自分で開発してたな…下限が割と低い。
そんなのする子だっけ…?
まあいいや。それより彼女の話が問題だった。
一応過去のニュースなどは目を通していたし、何度も同じ過去だったから確認はやめていた。
私の復活する日は秋。
豊穣の季節。
あのきんきらきんを受け取る日だ。
そのフラグさえズレてなければ異常じゃないと決めていた。
それにだいたいおんなじ毎日だし、まあまあそれなりに過ごしていたから、確認なんてもう随分としていなかった。
今回は未来の柏木くんに興奮していたのもあって、他のことなんて考えてもみなかった。
これは過去が違う…?
「違うれふか…?」
「ふふ。この日記の日付け…あなたが姫に恋した日なんだけどさ」
「あ!? また?! や! んん"」
「これより前の日記はどこに行ったのかな?」
小学生の頃に書いたであろう日記はVol.3と書いていた。中身は半分ほど破かれていて、唐突に姫への恋が始まっている。
そして1と2がない。
「わらひも、さがしてるれふ!」
この子の部屋を家探しはしていなかったし、この子も探しても見つからないと言う。
ならもう現時点では確認のしようがない。
「ちょっと八つ当たりさせてね」
「ひ、い、いやれふ!」
もう過去と比べられないし。
ま、いいや。
それにしても、結構粘るな…?
いつもならすぐに堕ちるのに…?
…。
「この動画…もう一回見よっか」
あなたはどっちを寝取られたと感じたのかな?
◆
「ひぃ! そ、そう写真! その頃の写真はあるです!」
「この女…誰? あとこの車は…」
「さあ…でもこの青い車は知ってるです」
「柏木くんの…青い車…?」
「違うと思うです。この隣の女のです。おそらく先輩が描いてた絵のモデルなのです。今見てびっくりしたです」
これも初めて知った…と思う。
『───このモデルって誰かわかる?』
『え? 柏木くんが言ってたじゃん。理想って』
『そっか…そうだよな…』
あれは…15年前を覚えてないのは仕方ないって思ってたけど…
もしかして…本当はわかっていた?
実在の人物…?
つまり、わたしがまた記憶を消されてる?
もしくは、柏木君が私と同じ扱いを…受けている? 今から…受ける…?
誰でもない第三者の視点に立って考えてみると、他にも同じ力が働いてる?
「……」
「な、なんで、寄ってくるですか…? も、もう終わりなのです! もういきたくないでしゅっ!?」
「まあまあ。そう言わないで。一週間後には忘れてるし」
「ち、違うです! 先輩です! お兄ちゃんのこと忘れてたのです! 私、先輩のこと…好きだったん…です…! だから、だからこんなことやめてください!」
「いやいやそんなこと…」
あるの…? ここまで来て違うとかある?
「ほんとなのです! ほんとに…ほんとに…好きだったのです…でも…でも…ノートが…証拠が無いのです…好きだった…証拠が…何の一つも…無い、のです……」
越後屋ののはボロボロと泣き出した。
どうにも嘘をついてるようには見えない。
いったい何がどうなってるの?
もぉ、もぉ、もぉ!
◆
私は、ポケットの中のハート型の石を握り締めながらため息を付いた。
最近見つけたお気に入り。
廃棄された旧佐渡神社から見つけた石。
ハート型なんて、恥ずかしいかもしれないけど、可愛いお守りだ。
ピカピカに磨いて持ち歩いている。
「銀ラメみたいに光ってるよね、キミ」
なんだかあの遠い昔の柏木くんの絵の色みたいで、お気に入りだ。
結局、それ以上ののは知らなかった。
時間は元には戻せない。このまま進むしか…ないか…。
「次の方、どうぞー」
「はーい」
さあ、最後の検査に参るとしますか!
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