昼ドラ。@柏木裕介
瞳さんはなおも続ける。
「華ちゃんとパパと明日香はともかく、裕ちゃんは常識人だと思っています」
「え? いや、そんなことは…」
何故に亮平パパまで…というか瞳さんも大分とおかしいと思うが…
しかし、常識か…未来人にはちときついんだよな…
そうなるとここ、非常識の塊になってしまうんだが…使い方違うか…
「華ちゃんが常識はずれの発作で突っ走ったのはわかっています」
「発作…? あ、いやそれは違うと…いえ何でもありません。続けてください」
こういうことはお互いの責任だしな…
華だけに責任は負わせられない。キリッ。
いやキリッじゃないか。
とりあえず完堕ちするわけにはいかない。
何と戦ってるのか意味わかんない。
つーか見とけよ! あと一年もすれば身長は逆転する! その時こそは、その頃には──手遅れかも…しれないな…
というか、過去でも未来でも常識的にまずいのはわかる。わかるが、スペック的に抵抗出来ないというか…好きとイジワルの言葉と匂いにビクンビクンするというか…結局まだ教えてもらってないんだよな…
そして謎の指パッチン。
あれはもはや魔法だ。
こいつ、そろそろ火とか出せるんじゃなかろうか…
そんな事を考えていたら華が冷たい声で空に向かって呟いた。
「PC燃やしたのはどこのママかなぁ…?」
「は、華ちゃん、今はそんな話してないの。黙っていなさい」
瞳さんは一瞬慌てるもすぐに立て直し、少し強めに返した。ってPC燃やすって瞳さんも魔法使いだったのか…いやないか。
おそらく捨てたって意味だろうが…ギターならわかるが…いや、嘘だ。大人になっても未だわからない。弾けよ。どれだけの職人が関わってると思ってんだ。パフォーマンスより大事にしろよ。
華と瞳さんは、最近親子仲が悪いというか…それが原因かも知れない。
気になって言おうとしたが、うちもそんなに変わらないし、やめておいた。
ん? あれ? 亮平さんと瞳さんが揉めてたんじゃなかったっけか?
「お母さんは…もしかして……裕くんとの…仲を…裂く…気……? マ…?」
「…ま…? ちゃんとわかる言葉を使いなさい! そうじゃな……目が怖ぁい…ママになんて目を…裕ちゃん! 何とかして!」
なんでだよ。
さっき無力なの見てただろ。
僕は無力だ! ガラクタ一つだって救えやしない!
なんて歌ってしまうくらい無理だ。
ガラクタくらいリキ入んないんすよ…さっきも晩御飯をあーんばっかりされてたのはイチャイチャじゃなくてクタクタで実質介護なんすよ…
でも瞳さんが見たことないくらい怯えてるしな…
チラリと見た華は、組んだ腕組みを解きバッテンをまた作った。
なんでだよ。
こっちが懺悔中だろ。
つーかなんで華は何事もないんだ。
ツヤツヤして無表情でバッテンとか人生で見たことないんだが…
というか親子揃ってなんなんだ。
「わ、私が言いたいことは一つよ! まだあなたたちは中学生なの! 脱帽は大人になってからにしなさい! いいわね!」
「はい…」
はい、ごもっとも。
ごもっともでございます。
しかしきっついな…
てか脱帽言うなし…亮平さんはにこにこしてるだと…?…
すると華はそれに答えずに、亮平パパに話しかけた。
「パパ。お母さんとの初めてはいつ?」
「おまっ…むぐっ?!」
「裕くんはちょっと黙っててね」
口塞ぐとかするか?! というかなんて事聞くんだよ! そんなの聞きたくないぞ! 男は繊細なんだよ! というか彼女の両親のそんな話とか嫌だろ!
「…それ…言わなきゃいけないかい? 懐かしいパパ呼びはすごく嬉しいけど…ママがちょっと怖いかな…ははは」
懐かしい呼び方…そうか…実の父とはいえ、味方にするために相手の欲するヨイショを混ぜるなんて…女の子はこの頃からわかっているのか…中学生なんて子供だと思っていたが…すげぇ…
いや、全然大人だったな。
子供だったのは僕の方だ。
マウントの一つも取れやしないしな…マウントの意味が違うか、違うな。意味は一緒か。
でもそんな華のヨイショがあっても、亮平パパも瞳ママには勝てないようだ。
というか、亮平パパさっきから話の内容に動じないな…
昔からの関係のままなのはわかるが、娘が男に取られるなんて嫌なんじゃないのか。
年近いはずなのに尊敬してまうわぁ…これが子を持つ親の肝か…いい色してんだろうな…
それにしても、喧嘩し合う母娘と仲裁する父、か…全然仲裁出来てないが、家族のカタチか…
父さんが生きていたら、こんな未来もあったのかな。
そんな円谷家族の様子を黙って見ていた我が家のアナーキストが、華と無言でタッチした。
どうやら黙ってはいられないようだ。
なんでだよ。
黙っとけよ。
「タッチ交代よ。私が言い換えるわ。亮平さん…あなたが瞳に初めて襲われ──」
「母さんやめろ」
その話は華を見ればなんとなくわかる。わかるが、今は僕と華の話なんだし、瞳さんの懸念はもっともだし、ちゃんと聞かなきゃいけないだろ。
というかそんなこと聞きたくないんだよ!
それに華と僕が同い年なんだしなんとなく柏木家側も計算するだろ!
もっとも、いつか聞いた母の年齢は、いつ聞いても16歳で固定されていたから、聞くのをやめていた。
葬式の時に初めて年齢を知ったくらいだ。
ジャニジャニしてんじゃねーよ!
時空を超えてのツッコミとか嫌だからな!
「裕くん邪魔しないで。今大事なところなの」
「なんでだよ。とにかくそういうのはこう、秘めとかないとダメだろ。瞳さんも困ってるし…それに今は僕と華の話だ。怒られてんだよ。素直に聞けよ」
チラリと瞳さんを見ると、瞳をうるるーとさせながら感動していた。
「裕ちゃん…! やっぱり裕ちゃんだけは味方なのね…!」
いや、亮平さんもいるから。
懐ぐっさ深いから。
肝とか多分めっちゃええ色してるから。
すると何故か太ももを抓りながら華が怒る。
「人妻はダメだと思うな…! わたし…!」
「お前は何を言ってるんだ」
「逮捕しちゃうから! とりあえず卒業まで!」
「マジでやめろ」
お前は僕を殺す気か!
何か、最初とは全然違う使い方してんな…
良いこと…なんだろうな…なんだろうか?
というか人妻にそんなことするわけないだろ! それに、いったい何歳差だと思ってんだ…いや、そんなに離れてないのか。
「そうよ、裕介。幸せな家庭を壊すことは許さないわ。そう、あの女のように……ふふ…後でまた聞かせてあげるわ」
そう言って母は目を細めて薄く笑った。
怖えよ。
円谷夫婦も何だか微妙な空気だ。
それにしても…また…? 当時、何か聞かされていたのだろうか…?
いや、母さんの昼ドラ話とか無理無理無理。
全力で聞かないからな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます