バックトゥザフューチャー。@円谷華 1st
銀色毒野郎は、薫への気持ちを吐露する毎に、ニョキニョキと修復していった。
辺り一面、銀色の世界になっていく。
これは…やっぱりそういうことね。
───そうやって…だって…見守ってたのに…あいつと違うのに…やめてって言っても…届かなくて…何回も斬りつけるから…ムカつくし…あんな女、もう知らないっす…
「だから裕くんの記憶、この流星に換えたのね。よくやったわ。褒めてあげる。だけど足りないわ。それよりまだまだ毒を…他の記憶も飲ませなさい」
───閣下…それ…常人じゃ発狂しますよ?
ふふ。ついでにこの世界でも裕くんの心が他に移らないようにしないと。偶然か奇跡を求めて空を見上げても、やっぱり何も降ってはこないのよ。
───聞いてます? やめときましょう、ね?
そう…そうよ…初恋よ。わたしに最初に恋をしてもらえばいいんだわ。初恋を逃したタイムリーパーがだいたいやってるもの。わたしがやっても良いじゃない。そうよ!
というか裕くんとの両片初恋じゃなかったと認めるようで…鬱になりそうね…まあいいわ。初をいただきよ。
───閣下……いろいろアレっすね。
「な、何よ。裕くんが他に目移りしたらまた世界が増えてしまうかもしれないからどうしてもどうしようもなく仕方なくよ!」
───本音は?
「小さな頃の…XSサイズ裕くんでしょ…? それは…その…そんなの…可愛くって…可愛くって…パク…って言わせないでよ! もぉ馬鹿っ!」
────げぎゃっ!
◆
「さあさあ鶏でも卵でも、輪廻の果てでも、どこでもいいから飛ばしなさい。一番の可能性の高いところに飛ばしなさい。まどかが何かする日に飛ばしなさい」
───いてて…照れながら斧投げるのやめてくださいよ…というか俄然やる気じゃないすか。
「ただのハチェットよ。とりあえず送った先のわたしはまだまだ小さいから、力を貸しなさい」
小さな探偵になって、暴いて止めてあげるわ。
それこそサッカーボールを蹴ってでもね。
不思議な銀のパワーで、切り倒すわ。
それこそ宇宙人みたいになってでもね。
───…一緒に行けるかわからないっすよ? しかも送った先が金か僕かもわからないっすよ? 何にもない崖かもしれないし。
「まあ、わたしが金色から来たしね…でも何にもないってことは何でもアリってことよ。毒、あなたは行きたい場所にどこでも行けるわ。それに泣き事なんか聞きたくないの。わたしだって今日からの未来を諦めるのよ。気合いでなんとかしなさい」
───ええーそんな無茶な…
そうよ。裕くんが30歳で死ぬような運命にはさせない。
きっとあの壁の向こうに答えはある。
時を超えて助けるの。翼になるの。柔らかく包む風になるの。わたし。
でも…はあ…未来か…後髪を引かれる思いね…未来なのに。
ここから抜け出して、裕くんに謝れば、この世界のわたしの未来も願望も将来もきっと咲く。
……。
「でも…でもこの交差点じゃないし、あの交差点でもないわ」
───あの?
ええ、あの日よ。
二年前の冬よ。
609日前よ。
クズに襲われた日よ。
「あの日あの時あの場所には戻さないで」
───……いいんすか?
ええ、その日だけはわたしはわたしに任せるから、あなたは手出ししないで。
でもだってそうしないと、必然じゃない、運命じゃない、将来がない。
裕くんとの未来がちゃんと咲かないじゃない。紡がれないじゃない。
今度こそ、見知らぬ二人にはならないわ。
わたしはそれまでに積み上げるのよ!
そしてラブストーリーは必然に! よ!
ふふ。
───それ…それまでを洗脳する気じゃ…
「だまらっしゃい」
でも、そうね。その日はそれを言葉にせずに願うだけにするわ。
言葉に出来ないのが愛って言うしね。
何にしようかな…やっぱり虹ね。
渡せなかった虹色の長いマフラー。
それを歌えなかったラブソングを歌うようにして…あの切なさに届くまで…橋が架かるまで編むわ。
それに、例え襲われたのだとしても、今度は間違えないわ。
爪のかからないようなもどかしさ、それはもうないのだから。
だからどんなもしもが、わたしの未来に割り込んでも、構わないわ。
だって裕くんは一番最初の時も、さっきみたいに、この別世界だって、いつだってずっとずっと諦めないで思ってくれていたのだから。
きっと襲われても。
きっと見せつけても。
きっと30歳になっても。
きっと薫のタイムカプセルを読んでも。
きっとずっとわたしを愛してくれている。
好きだよと言えなかったわたしの初恋は、この胸を離れないわ。
どの時空、例えどんなマルチバースでも、永遠に。
今度はわたしの番よ。
───初恋は胸を離れない…でもそれは多分…やはは、何も無いっす。
「言いたいことはわかるわ。わたしは…カヤの外なんでしょう? この絵の…あなたの…薫の世界のテーマなんでしょう? もしかしたら…この世界から弾かれる力も利用する気かしら」
───……。
だとしたらとてもイビツなダイブかもね。
あなたのエゴとわたしのエゴのシーソーゲームなのは、あなたの花と香を比べればわかる。
あなたはわたしを騙してでも過去に送りたいのよね。
ふふ。でもそんなの構わないわ。
ただ、わたしはデザインするのみよ。
それに、だいたいの初恋は叶わないものなのよ? 残念なことにね。
悲しいけれど、それが現実なのよ…ふふ…あははは…
お───ほっほっほ……ん?
「…ん? あれ? じゃあ今からどうしたらいいの、わたし…? あれ? あれれ? なんだか急にドキドキしてきたわ!」
───…やっぱ閣下ってアレっすね。
「ま、まあいいわ。全部だいたい毎日潰せばオケー、そんなもんでしょ」
───そんなもんなわけねーすよ。大雑把っすね…無茶しないでくださいよ…力にも限界あるっすから。
そこは頑張りなさい。
あまり好きな言葉ではないけれど。
願いの為に頑張るのは当然なのだし。
それに人生一度きりなんだから枯れるまで走ればいいじゃない。
それと…いえ、そうね。そうしてあなたの願いとわたしの願いが叶ったその日には。
「あなたとともに、この世界から消えるわ。毒、あなたも寂しいでしょうし。薫を諦めたなら一緒に行ってあげる」
あなたの願いと薫の願い。どちらも揃ってるからこの世界は進まないのよ。
────…!
「元は…わたしが蒔いたものだし。それでいいでしょう? だから一つだけでいいから座席を用意しておきなさい───何か文句あるかしら?」
そう言うと、毒は──ギンモクセイは焦ったようにして、眩く点滅した。
そしてわたしの意識は伸びていく。
細く細く後方へ収束していく。
毒、あなたやっぱり薫が大好きなのね。
満開の花が最初より綺麗で少し妬けちゃうわ。
しかもあの香りより全然いい匂いじゃない。
それなのに、何がムカつくよ。
素直じゃないわね。
でも初恋なんて、そんなものかな。
「ふふ…さあ、今度こそフライトゥザパスト……いいえ、裕くんとの未来のためだし銀だし過去だし…あなたは白い花で毒だし……それこそ──」
バックトゥザフューチャーね。
そうして、わたしの意識は流星になって消えていった。
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