ミラクルガール。@越後屋のの

 教室の窓から外を眺めていた。


 髪が風に揺れる。


 遠く山肌に夕暮れの光が当たり、寂しそうに跳ね返って…はぁぁぁあああ…虚しい。



「…愛の…日ですか…」



 そんな私の心の嘆きを、同じ班のメンバー達が、茶々を入れてきやがるです。



「ののちゃん、そんな窓際立っててもミステリアス風味は出ないよ? いくら髪が揺れてもののちゃんの場合ミステリアスというかホラーだし。というかいい加減窓閉めて。寒い」


「そだぞー髪逆立ってるからホラー女だぞー」


「うるさいですよ。そんなんじゃないですよ。どちらかと言うと私はミラクルガールです。奇跡を起こすです」



 今日の放課後は自由研究の話し合い。ぶっちゃけると、今はあんまり考えられないのです。


 だってこの後…姫様が大人に…大人になる…かも…なんて……あの姫様の顔…が…獲物を狙う鷲のような…ぬがぁぁあああ!!!


 しかも私のチョコを…食べずに…一口だけでフォーリンラブするのに…



「また変顔して…もー素直に祝福しなって。引きずり過ぎ。それよりこれどうするの。課題。地域信仰における土地神の役割と有効性だっけ。なんでこんなのにしたの」



 茉莉からそう言われても、頭に入らないのです。


 今日は無理なのです……


 こうなったら奇跡をぉぉぉおおお! はぁ…奇跡…奇跡なのです…奇跡は…いつでもー…君のハート次第ー…ミィラクルガゥー何にも思いつかないーよぉウォゥウォゥミラクルガぁぁあああ!! 柏木ぃぃぃいい!!



「それ、姫様を祀りあげたいがためにでっちあげたいやつだろ? 市の公認ゆるキャラにまで押し上げるつもりだろ。なんせ、ののだし」


 

 加代に言われてもその通りだから答えられないのです。姫様のポテンシャルと柏木パイセンの画力があれば天下取れるです。



「嘘…真面目に調べてきたのに…越後屋さん…酷いよ…」


「あーねー。ののちゃん本当外面いいからなぁ。中島さん、見事に騙されたよね。適当で良かったんだよ。ごめんねー。それよりののちゃぁん、お昼休みなんだったのぉお?」



 中島さんに嘆かれ、茉莉がぐさりと刺してくるのです……


 そうして、ようやく私の喉が開く。



「姫様に…釘刺されたです」


「あれま。ふふ。融和路線に方針変えても駄目だったでしょ? わたし言ったじゃん。ウザいままで変わってないって。そりゃあそだよ。ただの嫌がらせじゃん。何したかったの? 馬鹿じゃないの? ミラクルって言うか頭クルックル? クルクルガールなの?」



 幼馴染の茉莉は追撃をかましてくるのです。昔っからこいつは軽い調子でネチネチとぉぉぉおお!


 はあ。



「パイセン全然釣れないのです…姫様の為なら乙女の柔らか肌も辞さないっていうのに…浮気現場を目撃させての破局狙いが…ギリギリまで煮詰めたパパンの精力剤が…」


「うわ…やっぱりそんなとこだったよ」


「越後屋さん怖いです…」


「駄目だこいつ」



 茉莉、中島さん、加代は私のプランにケチをつけやがるです。人のハートを奪うのになりふり構ってなんてらんないのです。当たり前なのです。



「つか、そんなのしたらお前も諸共アウトだろ。馬鹿なのか」


「そんなに柏木先輩じゃ駄目なの…? ののちゃんよりずっとずっともっとまともだよ? やっぱり馬鹿なの? あ、馬鹿だった!」



 加代も茉莉も容赦ないのです…幼馴染だし慣れてるけど…こいつら…。


 竿なんていらないのですよぉ。なんでわからないですかぁ…女同士なら無限なのにぃ…



「駄目に…駄目に決まってるじゃないですか! 何であいつなのです!? 絶対おかしい…ってこれ何です?」



 机の上にある資料に目が行く。


 百年記念病院にまつわる怪奇、と書いてある。


 怪奇?



「ならなんで婚活仕切ったんだよ…やっぱり馬鹿だ。馬鹿がいる」



 付き合ってかーらーのー浮気で破局狙いに決まってんでしょうがぁぁぁあああ! じゃなかったら誰がパイセンとくっつけるってんです! なのに姫様が…あの時の顔に…ぐぎゃぁぁぁああ!


 それに、柏木パイセンに他の女をあてがうのには…何か抵抗があったのです…



「う、うるさいです! 早く言うです!」


「中島ちゃんが最初に言ったろ。課題用にいろいろと調べてきたって。だいたいののがふわっとしたイメージしか言わないからだろ。昔病院で首吊りがあったってやつだ」


「それは嘘なのです。確か飛び降りなのです」


「わたしは焼身って聞いたなー」



 茉莉、加代のは昔聞いたことがあるです。北里では、クラスごとに噂の内容は違っていたです。


 怪奇と言えば、怪奇なのです。


 でもあれは…



「小学校の時だよな」


「うん。あれで写生場所変わったよね」


「そうなのです。傍迷惑な話なのです。結局何もなかったです。そのせいで山に何度も登るハメになって…そんなことより仲を割く案、何かないです? 買うですよ?」



 三人を見渡せば、一人だけ黙っていた中島さんが、オドオドしながらも手を上げ、口を開く。


 彼女だけ同小ではないです。違う噂かもです。



「あの…梅小では…目の前で消えたって話で…でも…人一人は確実にいなくなったって…噂されて…たよ」


「こわーその溜める言い方やめてよ、中島さーん」


「そういうと思って、茉莉には見せなかったけど、その人の名前はここにある。見るか?」



 聞いちゃいねぇです。どっちが人の話聞かないですか。


 え、これって…



「お悔やみ蘭じゃないですか…この名前…やっぱりパイセンは潰す!」



 苗字読めないけど、ケチがついちゃうでしょ!



「あー、流石にこじつけが酷いよ。円華チャンネル関係ないじゃん。けど、別記事だと行方不明扱いじゃない? こわーい」


「そうなんだよなーググっても何にも出てこないし」


「加代が…ググるとか…あの運動お馬鹿が遂に人類に進化したです。お小遣いあげるです」


「こいつ…もらうけどよ」


「もらうんだ。じゃあわたしもー」


「仕方ないのです。チョコミント奢るです」


「三人どんな関係…?」

 


 うんうんと、友人の進化に喜んでると、中島さんはさっきとはまた違った雰囲気で語り出すです。



「まあ…越後屋さんだし…さっきの話なんだけど、続きがあってね。ある日の晩…宇宙人が現れて…その人を攫って行ったんだって。入院患者さんが見たんだって」



 宇宙人? です?


 それはあの森田先輩なのです。


 人のこと、詳し過ぎるです…まるでスパイウェアみたいで、丸裸に侵食されて舐め回される感覚…怖い時あるです…ううっ…


 はぁ…弟子入り…したいのです…

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