マイリトルラバー。@円谷華。
バレンタイン当日、お昼休みに抜け出し、ノノちゃんの部室に集まって彼女達の意見を聞いていた。
「こういうのは相手を待てばいいのかな…私から誘ったほうがいいのかな…?」
「バレンタインだし自分から攻めてもいいんじゃない? 柏木君奥手っぽいし」
「私は待ったほうがいいと思うな。受験もうすぐでしょう?」
「え〜好きにすればいいんじゃないかな? というか、姫の誘い断るとかある?」
あまり関わりたくはないけど、使えるものは何でも使う、わたしはズルい女なのだ。
あのクソビッチだった彼女達。ビッチとはいえ、先輩だ。何せ、バレたとはいえ二股をしていても平然としていたのだ。男達を弄べるほどの才を持っていると言える。
まあ、その男の子達はみんなあのクズが攫っていったんだけど。
どうやったらそうなるのかわからないけど、薫ちゃんが何かやったという。
そんなことより、今年のバレンタインのチョコはお家に帰ってから。
いつものようにご飯を食べ、お風呂をお手伝いし、チョコを渡す。
でも渡してから、どうすれば良いのか。
それを彼女たちから聞き出していた。
裕くんからありがとう、ギュッは多分ない。
ギュッさえあれば、なし崩せるけど、未だわたしは乙女。寝てる時ならともかく、自分からはいけない。未来人の裕くんにそんな賭けには出れない。拒否されでもしたら、受験落としちゃうかも知れない。
かと言って薫ちゃんには頼りたくない。
彼女は一般から大分ズレている。
「ノノちゃんはどう思う?」
「わかりませんよ! そんなの……姫しか追いかけてないですし…はぁ…ところで下着はどんなの着ますですか? 最近買った黒いやつですか? 大人っぽい赤いやつですか? パイセンヘタレだから気を失うと思うので普通のがいいと思うです。勿体ないです。私なら失います。捧げます。これが愛です。お一つどうですか?」
そうだよね。この子もズレてるんだよね。
「うわ…なんで知ってるんだろうこの子…」
「越後屋さんはぶれないですね」
「ノノ、あんた…こないだも思ったけど、柏木君闇討ちしそうで怖いわよ」
「し、しないですよ!」
この子のチョコは食べれない。何が入ってるかわからない。しかもお一つも何も、身体を開いてるだけ。チョコ塗ってそうだ、この子。
というか、朝の件だ。
「ノノちゃん。あの手紙は…何の真似?」
「え、あ…の…ちょっとしたプレゼントを…あげようかと…バレンタインですし…あ、告白じゃないですよ! 義理というか…ギリギリを狙う感じの…」
「え? 柏木君にチョコ…? 死ぬ気?」
「いや、絶対この子盛ってるじゃん。私らもされたでしょ」
「あー、そうだったよね」
「でも美月さんも…柏木君にあげてなかったかしら?」
「…そ、そうだよね。度胸あるよね…」
みんなチラチラこっちを見るけど、美月ちゃんは別にいい。小学校の時のことはわたしも反省してるし、止めない。
それに裕くんは靡かない。
わたしにもだけど…
「裕くんは今日大事な予定があるからごめんね? 意味わかるよね?」
「……はい…」
とりあえずノノちゃんは止めた。彼女は怖いとこあるけど、わたしの嫌がることはしない。
◆
「はぁ…」
結局のところ攻めたらいいのか待ったらいいわかんないままだ。この家までの帰り道で決めないといけない。む〜。
「どした? 調子…悪いのか?」
「う、ううん、平気! 何でもないよ!」
心配した裕くんが、尋ねてくる。
そう、何かあるのはこれからだ。まだ始まってもない。わたしのバレンタインはこれからなのだ。感覚を研ぎ澄ますのだ。
そうだ。思い出せ、わたし。
わたしは強請らない。
わたしは勝ち取るのだ…!
摩れば与えられん! なのだ!
ん? 何か違うな?
いや、多分合ってる。
「今日は金曜日…ですね」
「そうだなって急にどした」
つまり決戦の日と言える。
だからわたしはこう答える!
「何でも…あるよ?」
「あるのかよ。なんだそれ。まあ、いいけどさ。言いたくなったら言ってくれ」
裕くんならそう答える。いいけどさ、と。
つまり、何でもいい。
つまり、何しても、いい。
はい、言質いただきました。
体調を心配してのことだと思うけど、だいたい同じ意味だし、裕くんのせいで悩んでるし、これで解釈は合ってる。
◆
「あれれ~おっかしいな~? 明日香さんいないよ〜?」
「……華…お前それ…いや、いいけどさ…母さん…書き置き? え、旅行? 平日に出るか…? 明日土日か。そんなことある…のか? 何か聞いてたか?」
「んーんー知らないよー」
「……」
危なかった。セーフ。
休みを取ってもらい、うちのお母さんと旅に出てもらっていたのだ。お父さんもだ。
「…まあ、いいか。偶には遊んで…あの毒気が少しでも抜ければいいのに…」
ふふ。そんな言い方しても、目は穏やかなんだから。ああ、憂いね。憂いです。その憂いはわたしに突き刺さるよ。キュンです。
「もーそんな言い方しちゃ駄目でしょ」
「いいんだよ。いや待てよ? ナンパとか…ないよな…? 今更心配しても仕方ないか…でもどうしようか。ご飯、僕が作ろうか?」
「ふふ。大丈夫だよ! 下準備出来てるし! それにその足じゃ危ないよ」
「それは…そうだよな。まだ駄目か…下準備…?」
「え、えっとね、昨日のうちにね、パパッと終わらせておいたの!」
ガチャリと開けた冷蔵庫の中には、ギュギュッとディナーの用意が入ってる。
あ、しまった。全然パパッとじゃない。
「…これ…めっちゃ多くないか?」
「あれれ~おっかしいな〜? きっと明日香さんじゃないかな〜」
「……」
もー! 張り切ってたのバレるとか恥ずかしいよ! バレてないよね? 明日香さんごめんなさい!
「ご飯。ご飯作りますね」
「…まあ、いいか。いつもありがとうな…というか…今日って何かある日だっけか? 近所周りってこんなに静かだっけ?」
「な、何だろうね? 知らないな〜…座って逃げないで待っててね」
「逃げ…? いや逃げないけど…」
あにゃ! 間違えた! 脅してどうするのわたし! 焦ってる。これは焦ってます。落ち着け落ち着け落ち着け。
よし。人めちゃ食べたよ!
「何で…人の字飲んだ? 何人飲んだ? 何か…さっきから怖いんだけど…え、何が出てくんの? 晩ご飯だよな? 華? 華さん?」
「ば、晩ご飯だよ〜すぐ出来るからねー…」
駄目だ。まだ緊張してる。
ムードとかこういうのはいると思う。それを意識すると途端に頭が回らない。
明日香さんはだいたいお酒の話に持って行くからこういう時の話は役に立たない!
しかもあっちから来てもらってだし!
でも、そんなの裕くんはしない。しないからこそ、わたしなりの攻め方をしないといけない。
お酒じゃなくて何か…そうだ、お料理と一緒だ。
こういうのは入念な下拵えが結果を左右するものなのだ。
わたしの場合はどうだろう?
積みと歴はOKだ。
彼氏彼女にもなった。
毎日のラブコールもしてる。
部屋の鍵もしてる。
マフラーはついに七本揃った。
だから自然なのだ。大自然に二人帰ればいいだけなのだ。
それに何してもいいとさっき言っていた。
それとわたしも何されてもいい。
つまり、お互い同じくらいドキンコメーターが溜まってるはず。
もしそれが足りなくても、わたしは、あの日からずっとずっとコトコトコトコト下拵えをしてきたのだ。
裕くんを形作ってきたのだ。
デザインしてきたのだ。
ああ、それを使って、今日こそ花開けばいいだけだよ。
ふっふっふ。これは、勝った。
今なら指パッチンで、いける。
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