My Little Lover。@円谷華
お風呂から上がり、チョコケーキを二人で食べた。
紅茶を飲みながら、時折、手を繋ぐ。
「チョコケーキ、ありがとう。美味しかった。うん、美味しかった」
裕くんは、何か、少し緊張してるみたい。
あにゃ…こっちも緊張してきた!
「う、うん…頑張って良かった。一緒に食べちゃったけど…そ、それでですね。つきましてはですね…ホ、ホワイトデーの前借りをしたくてですね…」
「なんだ前借りって…聞いたことな…あ、お、おい、ちょっと待て。だから抱えるなよ…」
裕くんを後ろから抱きしめて座る。裕くんは気づいてないけど、お尻を浮かしてもらえる場所を予め触っているのだ。
背中に耳をつけてみる。うん、速いリズム。
2個の心臓をくっつけてみる。うん。わたしと同じ。
「あ、と…明日香さんとお父さんには了承済みです」
「聞けよ…ひ、瞳さんは?」
お母さんは知らない。あんな人知らない。
「バレンタインとホワイトデーを同時に楽しみたいです。彼氏彼女のイベントだとそうなると思います。バレンホワイトデーです」
「だから聞いてくれよ。そんなの聞いたことないんだけど…というか降ろしてくんないか?」
降ろさない。裕くんの頭の匂いを目一杯吸い込む……んーおかわり。
くっついてるだけで多幸感とかすごいけど、今日はカプの特別な日。
ほんとは裕くんから言って欲しいけど、提案しよう。そうしよう。
「こ、このままと溶け合う…とか…ど、どうですか…?」
「い、いや、意味はわかる、うん、でも、こ、こういうのは、じゅ、受験終わらせてからにしないか…?」
……。
「………好き」
「ぅあ…?! は、華! 前から思ってだけどそれなんだ!? なんなんだ!?」
……。
ちょっと…やり過ぎたかも知れない。お外で安易に言えない言葉になってしまった…
華、反省。
後悔はもちろんしていない。
「何って…愛の漏洩ですが…? あ。か、身体は正直ですね……?」
「それやめろ! いや、なんかちょっと待って、頭の中がさ、こう、ぐちゃぐちゃになるっていうか…好き以外選択出来ないって言うか、いや、好いてはいるんだけど、違って、ほんとおかしいんだって!」
「……」
裕くんの言いたいことはわかる。
前の、過去のわたしのことだ。だけどわたしはもう気にしない。というか今は気にしてられない。
何故ならエロいからだ。
裕くんが、なんかエッチィからだ。
その眉毛の下がった困った顔…涙目の潤んだ瞳…赤く火照る頬…わなわなとしてる口…震える薄い唇…また少し成長した喉仏…
なんか、なんかエッチだよ…
寸止めは一杯したけど、あれは寝てる時だ。
これにこんな起きてる表情がついたら…ああ…やばい。
可愛すぎて…もう…もう…
「……もう…駄目。もっとぐちゃぐちゃにしたい」
わたしは裕くんを抱き抱えて、お部屋を目指す…と言ってもすぐ横の和室だ。
左足でスパーンと襖を開ける。
またスパーンと締める。
お布団は一つ。
月明かり浴びた二人の影も一つ。
裕くんの、もっとその内側を見せて欲しい。
「ぐ、ぐちゃぐちゃ?! え、何、怖いんだが!? は、華…? ちょ、待て待て待て! 待って! わかった、わかったから! 落ちつこう! な! な? なあて!」
「ううん、わかってない。また難しい言葉使って逃げるつもりでしょ」
裕くんをそっとうつ伏せに寝かしつけながら、力の入らないポイントを指先でなぞる。
薫ちゃんとの神社での一件は、まるでミスをした会社への謝罪みたいで、彼女たるわたしへの謝罪には感じなかったのだ。
初めてキスをした時も、なんだかんだで逃げたのだ。
怒ってはないけど、少し腹が立っていたのだ。
「そうはいかないんだから。裕くんはわたしの身体のシミでも数えてて」
「それ天井だろ! というかお前の身体のどこにシミなんて……あ…」
お風呂の時間、水着着用でお世話していたわたし。裕くんは目を逸らす、というか瞑っていたと思って落ち込んでたのに…
あにゃ…
もぉ! もぉ! もぉ!
裕くん……!
「一緒に真っちろになろ…? ホワイトデーしよ…?」
「ホ、ホワイトデーするってなんだよ! ホワイトの意味違うだろ! 何言わすんだ! あ、ば、そこは、は、華、待って待って、ちょ、こ、こら! あ、あのな! 華さん聞いて! 本当のこと言うから! 情け無いことにまだちょっと怖くてんん?! ああ?!」
だが無駄である。
ここがー80点でーここはー83点。ここは93点! こんがんしてくるまで、続けますから。
ああ、いいよ、いい、その振り返って見る瞳…草食動物みたいな目、いい、今にも食べられそうな…潤んだ瞳…
ああ、ここもいいでしょ…?
「ああっ?!」
「弱いとこ全部わかるんだ、わたし」
「なんでだよ! あ、あかんて!?」
だって、そうデザインしたんだもん。当たり前だよ。
だけど、こころだ。心が足りないのはわかってる。未来人の裕くんを責めても仕方ないから攻めるのだ。
ただ…ここまでしても、わたしじゃないわたしが邪魔をする。
わたしの弱い心も一線を躊躇させる。
だけど、わたし、あの絵を見てから変なんだ。見たことないはずの絵なのに、胸が締め付けられる。
さっきは誤魔化したけど、頭の中は冷たくて熱い。
本当は待つつもりもあったけど、あの絵を見てから焦燥に駆られてる。
でも、弱い弱い私の心が、挫けそうにさせる。待ったをかける。冷たくさせる。
だけど。
乾いた叫びが、くじけそうな胸を突き刺す。とは誰の歌だっただろう。
そんな乾いたような心の叫びが、限界だと教えてくれる。渇望させる。熱くさせる。
そして限界は突破するためにあると、偉い人は言った。たぶん。
そうだ。突破しなければ、打ち抜かなければ、雨は降らず、虹は架からないのだ。
それに。
あの漫画には続きがあったのだ。
買い替えたPCに入っていたのだ。
あのヒロインは、30歳まで結ばれなかったのだ。それどころか別の人と結婚するフューチャーもあったのだ。
わたしは戦慄した。
流石にそこまでは待てないと!
わたしじゃない誰かに渡さないと!
「まだそういうの早いって! 出来ないって!」
「……出来る出来ないじゃなくて、するんです。裕くん。したらデキるんです。これが定説です」
「おま、それあかんやつやろ! ああっ!? んむぅ?!」
「ん、んむ…ちゅ…」
そうだ。ここだ。今ここだ。今日こそ心を引き寄せる。わたしの世界に惹きつける。わたしにムガムガ夢中にさせてしまうのだ。
裕くんに魔法は効く。
香水とマフラーと月明かりは完璧に整ってる。
司さんの遺影は伏せてある。
邪魔する人はいない。
ここら一帯、実はいない。
町内を巻き込んでの慰安旅行なのだ。
そして裕くんは、逃げられない。
円谷華から逃げられない。
かったいダイアモンドは砕けない。
たぶん朝まで砕けない。
そういう食材入れていた。
だから、今日のわたしの進撃は、ぐちゃぐちゃに溶け合ってめちゃめちゃにクラッシュするまで止まらないのだ…!
しゅき〜!
まずは寸止め二時間、頑張ろうね。
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