清楚系クソビッチ。@柏木裕介

 学校に着くと、校門に立つ体育教師に三好は呼び止められた。


 当たり前だろ。


 それなのに、何をにこにこしてスルーしようとしてんだ。お前デカいんだから目立つだろ。



「裕介、華、何かあるみたいだ。行ってみるよ」


「みるよじゃないだろ。捕まったんだよ」


「名前で呼ばないで。裕くん、行こ」



 とりあえず、絶対殺すぅーマンな華の頭を優しく撫でといた。


 華はあにゃあにゃ言って照れた。


 そうそう、それがいい。


 あれより、それがいい。




 待ち合わせ場所に来た華は、三好と一言二言交わした後、容赦なく流星を降らせた。


 いや箒星だな。


 リバーに箒星を一発降らせたのだ。


 倒れこそしないが、悶絶する三好。


 何が起きたか再起動に数秒要す僕氏。


 再び流れる箒星。キラッ。


 無様に這いつくばる事になった三好。


 身体を斜めに逸らし構える残心の華。


 松葉杖を持つ手に力が入る僕氏。


 震える膝に手を添え、笑いながら立ち上がろうとする三好。


 そして、立ち上がる拍子にヅラ取れる三好。


 そこでハッと我に帰る僕氏。


 なぜならそこにあったのは、顔が映りそうなくらい鏡面に磨き上げられているような、ハゲだったから。


 なぜならそれが、朝の光をこれでもかと言わんばかりに僕の目に壁パスしていたから。


 良く見れば眉毛も全剃りしてその上に描いている。


 あのイベントでの最後。寝取りクソ野郎とバレて人の波に飲まれた三好。


 それがツルピカ。


 あまりにもな本気の反省に僕には見えた。


 それと、どっちも強力なハラスメントにかなり震えた。


 だが、華は全然足りないと言う。


 なんで…だよ…!


 髪は女の命だけじゃないんだぞ…!


 お兄さんとおじさんを跨ぐ命綱なんだぞ…!


 というか何でこいつを僕は庇ってんだ!


 やめやめ。


 一言も発しないし、抵抗しないから、なんかこいつが悪いんだろ。


 でも華に一応は聞いておこう。


 すると華は、「すぐ終わらせるから…」そう短く言い捨てるのみだった。


 やだ、格好いい。


 惚れちゃう。


 ちゃうちゃう。


 待て待て待て待て。


 華と三好の間に、今世は何があったかはわからない。何もないから信じて欲しいと言われたから信じるまでだが、何かは…あったんだろう。


 さっきの動きは、まるで爆風だったしな…恨みだろうか。


 けど終わらせちゃ駄目だろ。


 華は流れる汗はそのままに、とりあえず今日は許してやりゅと、あにゃ顔で言った。


 どうやら止めるために前から抱きしめたのが悪かった。汗も違う汗だった。


 僕はと言えば、懸念していた吐き気はなかった。


 この二人の違う種類の尖りきった暴威のせいで、ぶっ飛んだのだろうか。


 くそっ、僕はなんて普通なんだ…!


 いや、普通でいいっす。


 普通最高、それ真理。


 しかし…幼い頃のままに才能に溢れている幼馴染二人を見たのにも関わらずに、恋や愛は別として、漠然とあった劣等感というか、コンプレックスが解消した気分だな…


 解消方法は、まったく予想だにしていなかったが、こんなこともあるんだなぁ。


 気づきっていきなり降ってきたりするんだなぁ。


 複雑だなぁ。


 いー天気だなぁ。



 そんなこんなで、僕からすれば、13年ぶりの幼馴染三人での登校に相なったのだ。


 道中は道中でかなり気まづかったが。


 華の殺気は撫でると止むことに気付けたが。


 しかし…骨折未来人に、流星彼女に、間男の娘か…


 この幼馴染パーティィいやぁぁぁ!





 華とともに教室に向かっていた。


 華はピタリと離れない。骨折だし、先生も注意しづらいんだろうな。


 見て見ぬフリされるし。


 てか、腕を抱きしめる華の暴威が柔らかくてあったかくて妙な気分にだんだんと…痛い痛い痛い!


 なんだなんだと華を見上げると、神妙な顔をしていた。



「気をつけて、裕くん。あれは反省してないよ」


「気をつける…? 何に? いやそれよりあんな頭で…反省してないってことはないだろ…?」



 あれってのは三好なのはわかるが…


 デスボイスではなかったが、メタルゴッドも真っ青だぞ、あれは…


 というか、あれ以上にどんな反省があるんだよ。



「ん〜もう! あっちなの! そっちじゃないの! こっちから近づいちゃダメだからね! どっちでもいいから気をつけて!」


「お、おう…?」



 というか、あっちこっちそっちってどっちなんだ。なんなんだ。一体何に気をつければいいんだよ。


 むしろ気をつけなきゃいけないのは、お前だと思うのだが。





 随分と遅れて三好が教室に入って来た。


 ヅラってつけたままで良いのか…先生も被ってるからいいのか。


 案の定、クラスはざわついた。ざわざわってマジで聞こえる。


 マジだったんだ…ざわざわは。


 三好はその足で、一人一人に謝って回っていた。


 みんな複雑そうだな…わかる。


 あのイベントの時、一番最初に殴っていた男の子もなんか目を白黒させて複雑な顔してるし…いや、あれは……照れてないか…?


 パッと見、今の三好は黒髪清楚系美人だしな…彼らも心が複雑だろうな…


 しかし…トラウマ製造機かあいつは…


 そんな追い討ちかけるんじゃねーよ…


 長かったら13年引き摺るからな…


 浮気男で間男で男の娘で…最低だな。最悪だな。しかしよくもまあ揃えたな、男カード。男の娘カードとか激ムズだろ…


 あと何があったっけか。


 何か…忘れてるな…純…情…?


 いや違うな。サイコだな。


 しかしなんというか…今の三好は、タチの悪い清楚系クソビッチにしか見えないな…



 あ、なんか久しぶりにピザ吐きそう。

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