今日から中学生。@柏木裕介

 早朝、いつも三好と待ち合わせていた公園で、華を待っていた。


 ここは通学路にある、とても小さな公園だ。


 華は、どうも待ち合わせをしたいらしい。


 そう、今日はタイムリープ後の初登校日。


 そう、今日から僕は中学生活をまた始める。


 ……


 つまり今日から僕は中学生だ!


 こんなセリフ、人生で一回こっきりだと思ってたぜ!


 二回使ってやったぜ! トータル二回だぜ! 当たり前だぜ! タイムリーリープざまーみろ!


 はぁ…


 やったぜじゃねーよ…言った事ねーよ。ざまぁもした事ねーよ。


 ああ、物凄く憂鬱だ。


 あのイベントのことだ。


 ほぼ全校生徒が居たあの場で、おっ立て告白だ。


 見えていたわけではないし、気づかれたわけではないだろうが、気持ち的には顔以外、丸裸の気分だ。


 変態だな。


 何せ、マフラーで周りが見えてなかったのだ。どう見られていたか気になるだろ、普通。


 それに、校庭で派手なマフラーぐるぐる巻きに顔に巻いてる奴いたら、誰だって見るだろ、普通。


 まあ、実際は服を着ていたのだし、気持ちの問題なのはわかっている。


 だが、人は見えないものを見ようとして、覗き込むものだ。いろいろと。いやなんか違うな。


 それにそんな事、気持ちいいかどうかの問題だ。いやなんか違うな。


 そうだ。こんなにゴネゴネしてるのには訳がある。


 気にしないと言ったが、あれは嘘だ。


 気にするっちゅーねん。


 ますます同窓会とか行き辛いじゃねーか。

 

 劣じゃなかった、違う意味で。とか言われたら目も当てられない。今世の僕が可哀想すぎる。


 そう、今世だ。タイムリープ前までの僕だ。


 今の僕は、言ってしまえば、裕2なわけだしな。サンデーブラッディーサンデーなわけだしな。何言ってんだ僕氏。


 不謹慎すぎるだろ。すみません。


 何せあの母の息子なんで。


 まあ、成るように成るか…



 血と言えばあのイベントでは舞い散ってないことになっていた。


 三好は階段から落ちたことになっているらしい。


 三好を含め、あの場にいた全員の証言でそうなっているらしい。


 やったぜ!


 落ちた厄病神のお仲間ゲットだぜ!


 なわけねーだろ!


 怖ぇーよ。みんなが右向け右とか統制怖ぇーよ。戦時下ならともかくよぉ…どうなってんだ…この時空はよぉ…


 でも僕はツッコまない。ツッコまないぞ。


 この受験戦争真っ只中な時期だしな…何の問題もない方がいい。


 右向け右最高。それでいい。


 それに、おじさんはしょーもない自分を守るために、時にしょーもない嘘にもしれっと乗るものなのだ。


 そうやって納得していたら、彼女が駆けてきた。


 長い黒髪を靡かせて、素敵な笑顔で、待ち合わせ場所に駆けてきた。


 言い忘れていたが、うちの中学の指定カバンはリュックだ。


 やっぱ、バネが…華のバネすごいのだ。その指定リュックがバインバイン左右に跳ねてる。頭から見えている。


 だからつまり、僕は思い出したのだ。



「おはよう! 裕くん!」

「おはようっす」


「えへへへ…久しぶりの登校だねっ!」

「あ、そっすね」


「…あれ? 元気ない? なんで?」

「いや、自分超元気っす」


「そ、そう? じゃ、じゃあ行こ?」

「うっす。うっすっす」


「……」 

「自分遅いんで、後ろからついて行くっす」



 僕は制服姿の彼女を見て、軽やかに駆けてきた華を見て、思い出したのだ。


 あの、ゼロ距離の攻防戦を。


 流星のサウザンズウォーを。


 つまり、長年身体トレーニングしてきた自分としては、流星拳の使い手に、まじリスペクトなわけで。


 そもそも女性は筋繊維が細く、おおよそ25歳をピークにして筋力は落ちていく。あと二年後の華を知っている身としては、今の彼女はまだ成長期。


 なのに、放つ流星。煌めく銀河。キラッ。


 いや、泣けたっす。まじ泣けたっす。


 フリースタイル具合にマジ泣けたっす。


 みたいな。



「ねぇ、裕くん。それやめて」


「いやしかし先輩これは…! あ、すんません。冗談です」



 おもっそ睨まれた。この子、目力めっちゃあるやん。


 まあまあ本気リスペクトだったのだが…仕方あるまい。



「それにしても…昨日は…んー…。あ! えへへへ…まるでダ、ダイアモンドだったね…? 明日香さんみたいに上手く言えないけど…わたし嬉しかった……あの瞬間は宝物だよ…?」


「やめろ。そういうのほんとやめろ」



 ボクの硬度の話はやめろ。そしてダイヤって言え。リスペクトやめるぞ。そしてうちのおかんみたいなのは、ほんとやめろ。


 何とは言わないが思い出すだろ!


 ちなみに僕らはまだ、乗らずのゴールド免許だ。





「裕くん。こっちから行こ」



 あの日からピタリと離れない華。


 今も教室どこだっけと目線とともにフラーっと身体が泳いでいたところ、腕をガッと組まれ連れていかれている。


 いくら補助とはいえ、有り難さより困惑している方がデカい。


 華がいろいろデカい。見せつけているみたいでいろいろおじさん無理っす。



「こっちだよ。もー忘れちゃったの?」


「あ、ああ、そうな。久しぶり過ぎて忘れてた」



「仕方ないよね……あ、に、入院してたんだしね! わからないことはこそっと聞いてね。なんてったって彼女だからね、わたし。おトイレいける? ハンカチある? ついていくからわたしで拭いて」


「やめろ。それよりそんな時はまずハンカチを貸してくれ」



「みんなおはよう。ええ、幸せですよ。みんなありがとう…ありがとー二人をよろしくー二人をどうかよろしくー」


「いや、聞けよ」



 当確した政治家みたいなのやめろ。


 まあ…嬉しそうだし、いいか…


 めっちゃ照れムズなんだが、いいか…


 しかし…付き合うって、こんなオープンだっけか…これただのバカップルってやつなんじゃ…


 ファンクラブが怖いんだが…


 松葉杖がただの言い訳に見られないといいけどな…





 僕の席は廊下側の1番前、入口前だった。


 どうやら骨折に配慮してくれたようだ。


 そして華は隣の席だった。


 僕の補助のためにと、変わってもらったらしい。すんません。


 僕の後ろの席の男の子は確か…誰だったっけ。喉奥からあと少しが出ない。



「吉富くん、この間はありがとうね」



 そう! 吉富君だ! 何部だったっけ。喉奥からあと少しが出ない。



「この時期って水泳部って筋トレばかりでしょう? 泳ぎたくなるよね」



 そう! 水泳部だ! というか華…君めっちゃおっきいのに…その席で大丈夫か? 後ろの…小さな女の子は…誰だっけ。



「ごめんね、西…由香里ちゃん。見えにくいよね。後でノート見せるから。今日って図書室いるのかな?」



 そう! 図書委員の西さん! 見えにくいだろうに…すんません。


 ん…? なんか…変…だな…?

 

 ああ、でもこんな感じだったな。


 こんな風景だった。


 こんな喧騒だった。


 同窓会も…良いのかもな。


 三好は…来てないのか。結構クリーンヒット受けてたしな…当たり前か。


 しかし、尻に肉が無いからか、思ってたより木の椅子は痛いな。そんな記憶はないが…椅子の感触に目を向けてなかっただけだろうか。


 机の角もこんなに丸かったか。一度通った過去でも、こんな再発見はあるんだな。


 しかし…この視線は何だろうか。


 いや、華と付き合ったから見られることはわかる。


 でももっとこう、妬みというか、やっかみみたいな視線ならわかるんだが… YES!華 NO!タッチはどこいった?


 妙に…生温い…?


 バカップルムーブのせいか…?



「裕介さん、今日は何を食べたいですか? 一段と冷えますし、お鍋はどうでしょうか? 一緒に暖まりましょう。一緒に」


「……」


 

 なんで急にキャラ変すんの…?


 こういう時どんな顔すればいいのか、わからないの。

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