エルはなんの。@柏木裕介
二月に入った。
いろいろな事があったが、日々はそのまま過ぎていく。
まだまだ慣れない中学生活。
それが慣れないうちにもう終わる。
大人になると年々、月日が経つのは早いなと思っていたが、なかなかどうして、中学生活も目まぐるしく忙しくて早い。
いや受験生だからか。
準備不足だからか。
周りが一度目とかなり違うからか。
まあ、気にしても仕方ない。
仕方ないが…
すぐにトラウマだった高校生活が始まる。
そのトラウマの片肺、根本、大元、三好に謝罪され、何だか気持ちは宙ぶらりんだ。
決して復讐したかったわけではないが、何というか、一部を除いてスッキリしない。
あんなに人気者だった三好が、ほとんどの生徒から冷たい対応をされても全然挫けない厚かましいメンタルの持ち主だからではない。
そう、三好1/2、しかも黒髪ツインテールバージョンを見たかったわけではない。
そのことだけは、スッキリわかった。
……
なんでだよ!
アレンジすんなよ!
これ以上女子力上げんなよ!
いや、女子力ってこう使わないか。
将来に不安とかないのかよ!
いや、まあ僕もなんとかなったしな。
憤る人間が違ってたな。
というか、何故あの格好なのか、華に聞いてもわかんなくて良いとしか言わないし…
三好に聞けば、新世界としか言わないし…僕のいた街にもあったが…そこじゃないだろうし…
あースッキリしねぇ。
あいつ、ほんま腹立つわ〜。
◆
休み時間の度に華と三好は言い合いをしていた。
「だからそこをどいてくれないかい? 裕介と話せないよ。いったい誰のためにお洒落してると思ってるんだい? この暴力根暗女」
「知ってるから余計どくわけないでしょ。裕くんの前で拳と汚い言葉使わせたら許さないから。わたしの彼氏にちょっかい出さないで。変態シスコン男」
なんか、内容が内容で、僕を取り合うみたいに聞こえてきてゾワるんだが…
「……なあ、アリちゃん。聞いていいかわからないけど…これどうなってんの?」
三好と連れ立っていたのはアリちゃんだった。
黒髪で顎くらいのストレートヘア。天使の輪を持つ清楚アイドル系の女の子。華と森田さんが居なければ、確実にてっぺんを獲る女の子。
そしていつも落ち込んでる子を一生懸命励ますような、そんな女の子だったと思う。
彼女は元々三好の事が好きだったらしい。
あの屋上に立っていた五人は、結局のところ、三好と付き合うのをやめて、女友達として仲良く再出発を果たしていた。
それでいいのか…
いや、いいも何もないか…今の三好、普通に女にしか見えないもんな…
そしてどうやら元鞘には戻らなかったみたいだ。
というか…女子側も複雑だろうな…迷惑を被ったのは男子だけかと思っていたが……
好きな奴がこんなトランスフォームしたらトラウマだろ!
そういうのは同窓会で明かせよ!
「あはは…ねー…私も…わかんないかな…ほんと…どうしようだよね……あはは、は…はぁ……」
「……そ、そうか」
どうやらアリちゃんに、強メンタルは芽生えなかったみたいだ。
あいつほんと迷惑しかかけないな…クラスター爆弾かよ……
変な失恋したアリちゃんになんて声かけていいかわかんねーよ。
「ところで! それ懐かしい呼び方…だよね…?」
「あ、つい。ごめんな、有田さん」
彼女とは、どんな距離感だっけか…華は大丈夫だと言っていたが…大丈夫ってなんだ?
「ううん。アリでいいよ…? そうだ! 怪我治ったらフットサルしない? 久しぶりに裕介く…柏木くんとしたいなって」
「いいよ。わかった。それと昔みたいに裕介でいいよ」
まあ、アリちゃんの懐かしい声は割と心に響くしな。
それにしても爽やかだな。
ああ、暴威達で忘れていた…
これが……普通の…中学生か…
声が青いぜ…寧静だ…また使ってやったぜ…違うか…違うな…
でもサッカーはブランク20年以上あるから許しておくれ。
多分身体動かないだろうし。
「ほんと!? 嬉しい…あ…でも…」
チラリと華と三好の方を見るアリちゃん。
なんだ? 何か不味いのか? 名前くらい構わないだろ? フットサルも。そもそも同小の昔馴染みなんだし。
「かまへんかまへん」
「ぷ、何それ。ふふ…もしかして元気づけてくれたの? 昔…落ち込んでたらいっつも新しい技見せてくれたよね……だから私は……じゃ、じゃあ…呼んじゃおっかなっ! 裕介…くん…ふふっ、これはあれだねー、あのバレンタインの時以来の──」
アリちゃんが僕から目線を逸らし、上を見上げ呟こうとしたら、いつの間にか両サイドから華と三好が詰めていた。
「有田さん…?」
「美月ちゃん…?」
「ヒェッ…! 近ぁッ! 怖いよ、華ちゃん、…翔、子……」
「なんなんだ、二人してその圧は。やめろよ……って翔子…?」
もしかして名前までもか…これで趣味の線は消えたのか…すると俄然スカートの中身が気になってくるな。
いや、いらないいらない。
というかこいつトイレとかどうしてんだ?
そんなどうでもいいことを考えていたら、机をバンバン叩きつつ、華が抗議の声をあげた。
「裕くん! 彼女はわたしなんだからね!」
「当たり前のことをおっきな声で言うなよ」
「あにゃ!? も、もぉ酷いよぉ…」
「なんでだよ」
華は、立ったままあにゃった。そして少しずつ寄りかかってくる。
僕は椅子に座っているから、側に立たれると、普通は見下ろす格好になるだろう。
華のディフェンスラインが下がったのを見た三好はしゃがんで僕の机に顎を乗せた。
そしてそのまま瞳を潤ませて見上げてくるぞ…
こいつ…造形は良いんだよな…
「有田さんだけズルいよ、裕介。僕とも昔みたいに股抜き合おうじゃないか」
「股抜き合うってなんだ。ただのデュエルだろ。やだよ」
「良いかも」
「良くねーよ。アリちゃんも何言ってんだ」
「だってサッカーするなら流石に女装は…うわぁ…どっちも嫌な想像しちゃったよ…ねちっこいディフェンスとか…私とは淡白だったくせに…はぁ……役立たず…」
「……」
アリちゃん…
なんか、居た堪れないぞ…まるでバーで良く見かけたピンの女性客みたいだ…
話の文脈から推測するに…あのアリちゃんが…大人に…だと…
同窓会ならそっかといけるけど、中三だぞ…そう言った話題とは僕は無縁だったんだぞ…ここまで進んでるのか…15年前は…
それと、何したんだ三好は…
しかも、どうやらその不満を解消せずに男の娘になったみたいだし…
「裕くんあだ名ズルい! わたしも呼ばれたい!」
「急になんだ……華…華…え、いや、長いのを短くするのがあだ名だろ…? んー? 円華はあるし……エル…? あ…すまん。女の子につけるあだ名じゃないよな…」
彼女は僕の胃とハートを軽やかに撃ち抜いてきた死神。
そしてポンコツとはいえ、探偵ムーブをかましてくる。
そこからエルと連想してもた。
全然掠ってもないのにな。
流石に悪いな…ってめっちゃ嬉しそうですやん…なんで?
え、うわっ!?
「んー、しょっと…」
「おい……なぜ姫抱っこした。降ろせ! めちゃくちゃ恥ずかしいだろ! 意味がわから──」
「えへへ…裕介く〜ん、好き!」
「聞けよ! エルはそんなことしねーよ! しかもお前があだ名やめてるじゃねーか!」
「またまた〜するよぉ。エルちゃんは大天使なんだよ?」
「え?」
「ん?」
お前はいったいどこの時空のエルの話をしてるんだ?
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