黒歴史。@柏木裕介

 ステージをぼんやりと眺めていてわかったのだが、どうやら今は男子のターンらしい。


 断った女子は校舎に入っていき、振られた男子は次の参加者に半ばヤケクソ気味にエールを送っていた。


 成功もあるようで、黄色い声でみんなに祝福されてて…なんというかグルーヴがヤバい。


 カルトみたいな一体感があるぞ…


 何これ…こっわ。


 普通告白ってもっとこう、春の麗らかな日にっていうか。二人きりでウルトラロマンチックにっていうか。こういう合コンみたいなのからはデパーチャーしたいっていうか…つーか合コンで告白せんだろ。


 狂ってんのか、このイベント…


 いや、学生だけだし、初めて会ったわけじゃないからいいのか…しかし疲れるイベントだな…


 ………待てよ…?


 嫌なことに思い当たったぞ?


 もしかして三好が言ってた舞台ってこれじゃないのか?


 あいつ連絡よこさないから普通に学校始まっての朝の登校時か、放課後だと勝手に思ってたが……いや、今のあいつは純情サイコ野郎だ。


 これは…これは有り得なくないぞ…まじかよ、嘘だろ…急にソワソワしてきたぞ…これ絶対黒歴史になるやつやん。


 そんなソワソワしてる僕に、谷川先生が問いかけてきた。



「ああ、そういえば柏木くん。文化祭の看板だけど、本当に良かったのかい?」


「…え? ええ、別に構いませんが…」


 

 なぜそんな言い方を…?


 あの日、病院で谷川先生に言われていた。


 文化祭で作った看板を学校でまた使いたいと。


 そもそも材料は学校のあり物で作ったはずだから所有権を主張するのもおかしいだろうしとOKしていた。

 

 そういえば何に使うか聞いてなかった上に何描いたか忘れてた。


 多分ウェルカムトゥザ文化祭的なことを描いたんだろ。



「それにしても柏木くんも可愛いところがあるんだね。もっと斜に構えた生徒かと思っていましたよ。ははは」


「……何ですって?」



 可愛い? 斜に? どう言う意味かわからんが…


 またもや疑問顔を見抜かれ、谷川先生に手招きで誘導され、校舎正面が見える位置までついて行った。


 そこからステージを見ると、ステージ上に観光地にあるような大きな看板があった。


 さっきは横からだったからわからなかったが、大きなベニア板の看板が二枚連なって、大きな面を作っていた。


 そこには一人の男の子と一人の女の子が描かれていた。


 ………まじかよ。



「ちょうどいいから婚活イベントにも使わせてもらうよ。ははは」


「ん、え、あ…あ、ああ、はは、はは…」



 これ……あかん。あかんやつやん。


 左側には華っぽいデフォルメ女の子、円華ちゃんがウェルカムと言って可愛く描かれていた。


 それはいい。いや良くはないが、それはいいんだ。でも違う、違うんだ。問題なのはもう片方だ。右側なんだ。


 右側にはデフォルメ男の子がいて、ようこそと言って描かれていたのだ。


 見間違いたい、気づきたくない、思い出すんじゃない、冷や汗がほら出てきたぞ。


 その男の子キャラなんて知らない。


 その男の子キャラのモデルが僕だなんて……知っとるわ!


 思い出したわ一瞬で!!


 誰にも隠してたやつやんか!!


 なんでここにあんねん?!



「あれは柏木くんと円谷さんがモデルでしょう?」


「い、いえ、違いますぅ…そ、そんなわけないじゃないですかぁ…」



 やっぱりモロバレやん…


 あれは…あれはな、アルツール・アンツネス・コインブラくん3世や……長い名前とかだとバレ難いしし愛着湧かないだろうなーって適当につけた…通称コインブラくんや…


 そして本来は校門の両端に置く二枚のウェルカムボードはな。くっつけることによってな。背景がな、柄がな、きちんと噛み合い混ざり合い一枚の絵になるっちゅーわけや。


 そうそう、あんな風にカップルみたいに…


 ってそれくっつけたらあか───ん!!


 そのキモいネタバレしたらあかーん!!


 つーかめっちゃ恥ずいやんけ! しかも真ん中に穴開けて一緒に写れるようなっとるやん! ご当地キャラみたいになっとるやん! 顔だし看板はそこに開けないんだよ! これじゃまるで二人の子供みたいに…ってアホか僕は…流石にそんな事はせーへんわ! 


 うわ、きっつぅ。


 今めっちゃ死にたいわ…


 あ、いや…待て、待てよ。描いたもののないわーって…どこにやったっけ…? 円華ちゃんはともかく、コインブラくんは普通に文字だけのデザインに描き直したはずだぞ…? 



「柏木くん、私も妻とはね」


「ちょっとやめてもらっていいですか?」



 そうだ、おかしい。僕が描いた本番は違うやつだったはずだ……実際使ったのも違うと思う…いや思いたい。だいたいヘタレの僕がそんな事するわけない。人目に触れないよう、コインブラくんを必ず隠すはず。


 そうだ! 卒業アルバム! …はまだないのか……でも確か…確か看板は終われば壊したはずだぞ!



「つ、通例では壊しませんでしたか?」


「在校生の嘆願…いや、まあ、越後屋さんだね」



 越後屋ぁぁあああ…!


 あいつコインブラくんの存在に気づいてたのか…


 そういえばちょくちょく部室来てたしな…言いたいことだけ言って…2、3分でどっか行って…


 しかしこれが黒歴史ノートを見られたアニメキャラがのたうち回る衝撃か…正直そんな嫌がらんでもええやん思てたけどこれはあかんわ…松葉杖じゃなかったら地面をローリングしとるわ…はぁ…予想以上の破壊力や…効果は抜群やで……


 僕のガッツはもうゼロや…


 違う意味でゲロ吐きそうやで…


 だが……前から薄々感じていたが、どうも少しずつ記憶と違う気がする。


 単に…忘れてるだけじゃない…? 


 もしそうだとすれば、もしかして…僕は……



「ほら、森田さんが顔出してるよ。ははは…孫に会いたくなるねぇ…」



 それらめぇぇええッッ!! 

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