大晦日の探偵。@柏木裕介

 鍋パーティを終え、華の両親は帰っていった。


 円谷のおじさんおばさんは終止、僕に憐憫の眼差しを向けていたのは何故だろうか。


 過去に二人とも折ったのだろうか。


 それだけが気になるくらいで、比較的楽しい夕食だった。


 華はカウントダウンをしたいと残って母と共にバラエティ番組を見ている。


 僕は風呂に入り、眠いと嘘を言って自室に篭って本棚をじぃっと見つめていた。時折母の笑い声が聞こえてくるくらいで、静かな夜だった。


 カウントダウンはウキウキした覚えがあったが、年々興味がなくなっていったな…帰省する家もなくなっていたし。


 そんなことをつらつら考えていたら、華がやってきた。



「裕くん、もうすぐカウントダウンだよっ!」


「おー」



 時計の針を見ると、あと10分ほどで新年となる。


 いや、ノックしようよ。


 華の格好は探偵が着てそうなチェック柄のウールの半袖ワンピースにベレー帽と白タイツだ。


 鍋パーティの時はカジュアルなジーンズ姿だった。


 よく見ると髪が湿ってる。


 今から初詣にでも行くのか?



「裕くん、もうすぐハッピーニューイヤーだね…ってどうしたの? やさぐれさんだよ…?」



 そりゃあ、幼馴染もの転生犯と同じ部屋にいればそんな顔になるだろ。ツッコまないけども。



「……カウントダウンとは言え、思春期男女真夜中同室はまずいだろ」


「…みんな起きてるかなぁ。誰が新年一番さんだろうね、裕くんも送ってね」


「いや聞けよ」



 華は、僕の寝るベッドに腰掛け、スマホを眺めながら新年あけおメッセを待ち侘びていた。


 こいつ…無防備過ぎて怖い。


 そのワンピ、裾短えんだよ。


 最近…と言っても風邪の治った日から彼女はおかしい。今も顔を赤らめ、妙にポーっとしてたりする。


 最初は風邪かなと思っていた。


 次いで知恵熱かなと思っていた。


 そしてこいつの横顔を見て、ああ、やっぱり三好なんだなと思った。


 ……



「ねぇ、裕くん…」


「…ん?」



 そう小さく呼びかけながら、ベッドから立ち上がる華。


 そのままなんかグルグルウロウロしだしたぞ…あ、止まった。



「君は…隠し事をしていますね?」


「なんだ唐突に」



 無表情で僕を指差す華。


 なに人に指差しとんねん。


 そう思った瞬間パシャリとスマホが鳴った。



「え? なんで写真撮った?」


「見てください。これ…全然違うでしょう?」


「病院の…?」

 


 撮りたての僕と病院のと…次は…これ球技大会か…? 懐かしいなっていつこれ撮ったし。


 なんで僕草抜いてるし。こんなんしたっけか?


 いや、全然違うって何が? 


 寸分違わず同じだが?



「ずっと…ずっと観察してたんだ…わたし」



 何か怖いこと言い出したぞ。


 華は部屋の中グルグルを再開させながら僕に語りかけるように切りだした。



「裕くんが飛び降りて。吐いた日からずっと。何を見て、何を見ないのかとか」


「……」



「何が笑顔を曇らせるのかとか」



 確かに…笑えなかった。笑えない状況なのは今でも変わらないが…愛想笑いは得意だ。


 おっさんだからな。


 見抜かれてはないと思うが…


 華は僕の前でピタリと止まり、目をまっすぐに見て顔を近づけてくる。


 こんな…黒曜石みたいな目してたっけ? 怖いんすけど…


 華は小さくくすりと笑い、それからまた無表情になる。


 怖えよ。陰陽の切り替え早くて怖えよ。



「優しい声は変わらない」

「匂いも変わらない」

「体温も変わらない」


「距離を取るのは変わらない」

「好きな食べ物も変わらない。でも…」


「鼓動が違う」

「喋り方が違う」

「そして…わたしを見る目と態度が違う」



 怖い怖い怖い! というかそんなフリ微塵も感じなかったぞ…無意識にか、目を背けていたからか?


 つーか、喋り方はわかるが…匂いとか体温とかどうやって…



「それに小学校の思い出もちぐはぐ。最近のこともはぐらかす…勉強も…絵も…この事から導き出せたこと………裕くん。君は──」



 まさか…


 こいつ…まさか!



「──記憶喪失さんだね?」


「……」



 ないか。人差し指をズビシィ、じゃねーよ。こいつもしかして服とベレー帽はそういう…


 何も言わない僕を見て、華は耐えきれないのかリテイクした。



「き、記憶喪失のフリさんだねッ?」


「あけおめ。華。おやすみ」



 もっかい擦るんじゃねーよ。


 寝よ寝よ。



「あにゃ?! 雑だよ! き、嫌いじゃないけど…ちょ、ちょっと寝ないで! おめでた…じゃない、おめでとう! おめでとうしよ! 新年はまだまだこれからだよ! 裕く〜ん! 明日香さんも初めていいって言ってくれたから〜」


「夜はこれからみたいに言うな。何を始めるかはわからんが、母さんのはただのいたずらでおふざけだ。信じるな。安心しろ」



 まあ、例え未来人だとバレたとしても、嘘告終わるまで、打ち明けるわけにはいかないんだ。許しておくれ。


 タイムリープ神が見てるかもだしな。



「華と、し、新春しよ? わたしはひ、ひとマスでも、ふ、ふたマスでも進めたいかも…あ、あれ? ほんとに寝ちゃうの? 裕くん起きてよぉ〜」


「青春みたいに言うな。揺するな。寝ろ」



 なんだ…双六の話か…相変わらず独特な表現するな…こいつ…


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