幼馴染もの。@柏木裕介

 実家に帰ってから、昼に寝るせいか夜に寝れなくなっていた。


 戻って以来、頭のリフレッシュのため、小説だったり画集だったり、漫画だったり。


 そんなに多くはないが、それらをのんびり読みふけっていた。


 その当時さらっと読んでいたのがわかるくらい内容を掴んでなかったのだと気づく。



「割と面白いの読んでたのか…」



 というか、家を飛び出して以来、こんなにのんびりしたことは今までなかった。


 が、仕事したい。ぶっちゃけのんびりが合わない気がする。父が早逝したため、あまり参考になった後ろ姿はないが…


 でも僕はこんなに仕事好きだったっけか? それとも迫り来る嘘告イベントからやっぱり逃げたいのだろうか? これを仕事だと割り切って捉えたらどうだろうか?



「自分のことながらよくわからないな…」



 ペラリと本をまた捲り、一人ごちる。


 ふと見上げて、自分の本棚を見る。そんなに数はないが、いろいろなジャンルの本があった。


 15歳までの自分の好きなもの、背伸びしたもの、実は嫌いだったもの。その全てがここにある。


 それがそろそろ終わりを迎える。


 ついにラスボスだ。



「最後はこれか…」



 幼馴染もの。


 そういうジャンルを僕は好んでいた。そんなに手持ちはないので偏愛主義者呼ばわりはされたくはないが、過去、華に対してのその態度が決定させたのだろう。



「今読んだらどうなるのか…」



 リハビリも上手くいっている。それに創作だ。吐きはしないだろうが、およそ15年振りに目を通すトラウマ15年物。


 なんだかアイラな酒みたいだが…


 果たして、鑑定やいかに…!





 結論を言おう。


 吐いた。


 駄目だこれぇ…


 かつての思い出が、紐付けされた思い出が、牙を剥くどころか包丁でざっくり刺してくる。滅多刺してくる。


 そしてこの丁寧にそれを隠してあった本棚が物凄く禍々しく見えてくる。


 キラキラとした思い出だったからこそ、反転してしまうと実にあっさりと心を砕いてくる。

 

 知ってたのに僕の馬鹿!


 トラウマなんて簡単に治んないんだよ!


 治るんだったら簡単に町捨てたり記憶に蓋したりしないんだよ!



「リハビリ無理。捨てよ」



 なんとなく。


 なんとなくだが、華がいない時にしよう。


 そう思った。





 大晦日。今日は朝から母と華が大掃除…と言ってもそこまでではないが、してくれていた。


 本来なら28日頃までに終わらせるものだろうが、入院退院風邪と続いたので、バタバタして出来なかったのだ。


 ほんますんません。


 ならばと、朝から目につくところだけしようとなった。


 僕は完全にお荷物だったので、二人が一階で掃除してたら二階に上がり、二階をするなら一階にと移動しながら勉強していた。


 ありがてぇ。


 もういいかと終わらせ、お昼を食べると華は一度帰っていった。後から円谷一家と柏木家で鍋パーティがあるらしい。


 どうやら華の両親も骨折を気にしてくれてたみたいだ。


 そして部屋に戻り、夕方まで読書しながら昼寝するかと本棚を物色した時だった。


 なんだか違和感がある。



「なんだ…?」





 唐突だが、結論を言おう。


 幼馴染ものが戻っていた。


 ばっちり本棚に戻っていた。


 なんだったら新品に転生していた。


 なんだったら知らない仲間も増えていた。


 やったぁ。


 おかわりだぁ。



「いやいやいや…つーか嘘だろ…嘘だと言ってよはもういいか…なんかこればっかだな…しかし…まあまあ怖いぞ、これ…母か華の仕業と信じたい…いやそれもどうなのか…」



 ある意味優しさにも取れるし、いたずらの線も捨てきれない。今ならここが異世界でも信じれちゃう。


 でも母…ではないと思う。なぜならあまり本を読まないからだ。



「つまり、華…だよな?」



 この本の裏に隠してあるの気づいたのか? 普通気づくか? さっきの大掃除で…いや、捨てたのは二日も前だし、昨日はどうもなかったぞ…?


 つまり元々気づいていて、今日掃除がてらに補充した?



「そうか…これはアレだ」



 工業高校…つまり男子校みたいなところ出身の先輩から、仲の良い男友達の部屋漁りをよくしたものだと聞いたことがある。


 そう。あの伝説のエロ本漁りだ。


 だが、華は女の子だからそんなことはしないだろう。するとしても命令だろう。


 だから三好だ。


 あいつは度々来ていたはずだ。


 つまり三好がいつの間にか漁って把握して抜き打ちチェック命令していたことになる……?


 ああ、ああ! 思い出した…思い出したぞ! 高二の時、寝取りを暴露したとき言ってたぞ! 



『──裕介の本棚、昔見たんだ。うくく…とてもとても滑稽だったよ。楽しませてくれてありがとう───』


『──そんな女が裕介とのデートの後であんあん喘いでるなんて知らなかったよね。ぅくく…つい笑ってしまったよ───』



 うがぁぁぁぁッッ!!! ……セーフ。脳がセーフ。胃もセーフ。



「ッ、はぁ、はぁ、んぐっ…よし、よし…心の中でこうやって吠えれば何とか誤魔化せるとこまでやっときたぞ…! いや、それよりだ」



 華を使いやがったな三好ぃぃッッ…! この粘着サイコヤンデレクソ野郎がッッ!!



「ははは…この挑戦、受けたぞ!」



 ばっちりリハビリしてやんよ! リハ活だリハか……古いか。いや新しいのか? いや普通か。つかそもそも活って何の略?


 って知るかボケェェェ!!

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