二本目の過去の私。@森田薫

 長い眠りから覚めるように、私は沈んだ意識から唐突に目醒めた。



「……へ…?」



 周りを見渡せば、懐かしい部屋だった。


 懐かしい柄のベッドに私はいた。


 私の為に、両親が地元から引越した…二番目の家だ。


 ああ、これ走馬灯なのかも。


 なんだか朝日が差し込んでるのか、綿埃なのか、部屋全体が綺羅綺羅して見えるし。


 そっか…何の変哲もない日常も焦がれてたっけ…


 けど、どうも現実感に溢れてる…?



「薫。起きた? もうお寝坊さんね。早く支度しなさい」


「…ママ…? …支度って?」



「あら、まだ夢の中かしら? 今日は健診日でしょう。昨日より少し寒いから暖かいの着ましょうね」



 これは…自宅療養…? 


 なんだかわからないまま、あれよあれよと車に乗り、馴染みの病院に着いた。


 その間に調べたら、10才の秋だった。



「キンモクセイくんが…いる…?」



 そしてキンモクセイくんがいた。でも私は生きてる…? また…やり直し…? 



「ああ、薫好きだもんね。今年は二回咲いたから花はまた来年ね」



 ママの言うことから推測すると、手術が成功してないとおかしい。


 だって、手術中に彼は咲くんだし。


 退院してるのもおかしい。


 リスタートが半年ズレてるのもおかしい。


 キンモクセイくんの死を乗り越えた…?



「ママは先生とお話ししてくるから、薫は受付で待っていて」


「うん…」


「平気よ。先生も順調って言ってたから」



 順調…? まだ頭が追いついてない…身体が軽い…?


 ペタペタと院内を歩く。

 記憶のままの病院だ。



「ん〜〜??」



 私とキンモクセイくんの両方が助かった?

 一人乗りじゃなかった?


 何もわからないけど…ん〜?


 そういえば病室はどうなってるのかな。



「薫。おいで。あなたの番よ」


「はーい」



 後で調べてみよう。





 調べたけど、謎が増えただけだった。



「あーわかんない! 全然わかんないよー!」



 病室は空っぽ。


 仲良かったお姉さん看護師さんはいない。


 キンモクセイくんはいる。


 柏木くんは来なかった。



「…薫はどうしたんだ?」

「それが今日の朝から何か変なのよね…」



 パパママごめんね、変なんだよ! 仕方ないよ! 病気が軽くなってるし! 身体動くし! ご飯美味しいし! もー! 何よこれー!



「…泣きながらご飯食べてるぞ?」

「お医者様に相談しようかしら…」



 何よこれー! ママの温かいご飯美味し過ぎるよー!


 夢ならどうか覚めないでー!




 

 わからないことは置いておこう。すごい不思議、SFだよ。SF。


 SFなら得意だ。


 対処法は深く考えないこと。


 心赴くままに動くこと。


 なら柏木くんだ! 柏木くんに会いに行こう!


 確か電話番号…あれ…覚えて…遠い昔過ぎてわかんないよ?! そうだ北里だ。北里小学校だ。でもちょっと歩いては行けない距離だ。


 自転車なら可能かな…?


 どれくらいのブランクかわからないけど、また乗れるかな…?


 いや、先に身体のケアだ。身だしなみだ。今回は髪の毛があるのだ!


 ふっふー。


 可愛くなって驚かそう!


 ん〜早く会いたいよ〜!





 なーんて我慢できるはずもなく、母に無理を言って車で北里にきた。北里商店街にママを連れ出して、お買い物中の隙を見て駆け出した。


 わわっ! 嘘みたいに身体が軽い!


 ならば元陸上部の走りを見よ!


 やぁぁぁぁぁー!


 すぐに北里小学校まで辿り着いた!


 そして時は下校時刻!


 柏木くんを見つけるのだ!



「…嘘……誰あれ…」



 柏木くんは見つけた。すぐわかる。そんなの当たり前だよ。


 じゃなくて、その横だ。


 もじもじしながら柏木くんを馴れ馴れしくもペタペタ触る女の子がいた。


 すごい可愛い女の子だ。


 ……


 ま、まあ? 柏木くん可愛いし? 気持ちはわかるし? 私お姉さんだし? 眼鏡取ると私ってば美少女だし? それくらいの可愛さなら? 嫉妬とか小娘なんかにしないし? 多少の火遊びくらい? まあ許してあげるっていうか…あ!? 抱きついた!? こらー! 誰よあいつ! ああ!? 柏木くんが満更でもない?! 満更でもない顔してるよっ!!


 ……ふふ。


 ……優しい…顔してる。


 良かった………うん?



「も、もしかして…別の世界線的な…? 私と会って無い的な…? ヒロイン枠交代的な…? 嘘でしょ!? やだよ! やだぁ! ああ!? またあいつ転んだ振りして抱きついた! 誰よその女! ぐぬぬ…騙されてる、騙されてるよ柏木くん! そんなあざとい奴に騙されないで!」



 もしかして、柏木くんが言ってたお友達かな…? 確か……はなちゃん。


 あいつ嫌い。


 私のマネっこするなんて信じらんない。


 これは嫉妬じゃないし。なんかあいつ根暗っぽいし、なんか危ういし。なんかヤンデレっぽいし。のちのちモンスターになりそうだし。


 …でもちょっと泣きそうだからお家帰ろう…まだカワイイをきちんと整えてないし…こんな格好じゃ会えないし…ママ待たせてるし…


 だけど、これは戦略的撤退だ。


 情報が圧倒的に足りないだけなんだ。


 それに夢かもしれないし。


 でも…もし私の考えた通りなのだとしたら…


 夢にしては…残酷だよ…キンモクセイくん…


 まさかだけど、私の初恋、呪ってないよね?





 調べたら、私の病気はどうやら軽かった。


 キンモクセイくんはいた。


 柏木くんもいた。


 でもコンクールの金賞は別の人だった。


 どこにも柏木くんの名前はなかった。


 そして金賞は全然別の絵だった。


 これのどこが金賞だよ!


 ただの山の絵じゃん!


 一応来年にキンモクセイ君のところに行って、確認しなきゃだけど、多分ここは別の世界線だ。


 運命のレーン的な何かを乗り換えたんだと思う。


 なら、この今の現実はタイムループが発動するかわからない。


 そして15歳で死ぬかわからない。


 だから難しいことは考えない。


 そう! 中学は柏木くんと同じところに行かないと! 青春だよ青春!


 でも…公立だしどうやって?


 学校の仕組みってどうなってたっけ?


 というか今小学校行ってるのかも確認しないと。


 でも学校か…懐かしいな…


 そういえば…私…勉強とか集団行動とか出来るのかな…? 


 柏木くんに会いたくて、だいたい自殺して小学校高学年と中学時代スキップしてたからなぁ…


 屋上ダイヴなら、かなり得意なんだけどなぁ…だいたい狙ったとこに落ちれるし…

 

 よし! とりあえず頑張ろう!


 待っててね! 柏木くん!


 一緒に恋と青春しようね!

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