華と薫とお昼ご飯。@柏木裕介

 今年もあと僅かとなった30日のお昼前。丁度二本の針がてっぺんに差し掛かろうかという時に、インターフォンが鳴り響いた。


 カリカリと真面目に受験勉強中だった僕と華は揃って顔を上げた。


 華に伝え忘れていたが、今日お見舞いに行くと森田さんからメッセがあったのだ。


 事後報告ですんません。


 それを聞かされた華はスッと立ち上がりボソボソと言った。



「…わたし出るから。…お塩もらうね…」

「ああ、お願いって塩で何する気だ」


「やだな…なんにもしないよ? 追い払ってくるだけ…」

「なんでだよ。お見舞いに来てくれたんだ…なぜおでこに手を当てる」


「…裕くん、大変…! お熱がある…!」

「そういえば寒気が…ってねーよ。はー…僕が出る」


「あ、あ、立たないで! もう…出れば良いんでしょ出れば……今からお昼ご飯食べて…ゴニョゴニョタイムなのに…」


「何をぶつぶつと…てかなんで怒ってんだよ…」





「……」

「……」


「…」



 ダイニングに案内してくれたはいいが、なんでこの二人さっきから突っ立ったままで、黙ったままなんだ? 


 俯いてるし…なんか怖いんだが…?


 それに…なんとなく気不味いぞ…? ラブコメの修羅場じゃあるまいし…


 あの病院での諍いは、内容こそ知らないが、方が付いたという話だったが…


 暇だし、この二人を紹介しよう。


 はい、こちら。白黒の千鳥格子のノースリワンピに身を包んだスタイル抜群のレンタルスパイ彼女、即落ちリバーブ…いやストマックブローだな。が持ち味の生ける死神。幼馴染の円谷華ちゃん。15歳。


 変わってこちら。ワイン色のピタっとしたニット地のノースリワンピに身を包んだスタイル抜群の記憶に無い女の子。青春15片道キップが持ち味の情緒不安定型暴走特急、友人の森田薫さん。同じく15歳。


 眼鏡外すとまたえらい可愛いなこの子… 黒髪天パのショートボブを今日は後ろに流しておでこと耳を出している。少し垂れ目がちのクリっとした大きな目。鼻はスッと伸びていて、唇はぷっくり。


 いかん。友人を評価査定してもた。


 というか絶対忘れないだろ、こんな子。


 二人とも背が僕より高いし、出るとか出まくってるからか、激凸な威圧感がある。


 部屋の中とはいえ、クソ寒いのに二人とも薄着なのもすごい。どちらも黒のオーバーニーしてるストッキング以外、いろいろ丈が短え。


 つーか、はよ座れや。


 なんか居た堪れないだろ。


 しかも何で二人ともノースリワンピの胸元ガン空きなんだよ。寒いだろ。


 これがファッションに命をかける若さか…


 おじさん、タイツないと無理っす。



「いつ帰るんですか?」


「来たばっかりだよ?」



 お。動きがあったぞ。というか、森田さんのリュック大振りでパンパンなんだが…



「今からお昼ご飯なんですけど。ずーすーしくないですか?」


「あ! そうそう、ずーずーで思い出した。ママにお見舞い行くって言ったら美味しいお蕎麦待たされたんだ。柏木くん好き…だよね? 美味しく作ってあげるね。ついでに円谷さんもご馳走するから。ついでに」



 なんかいろいろ出てきたな…食材だったのか…鍋出来そうなくらいあるぞ…



「…裕くんのご飯はわたしが作りますからってなんですか、その顔は?」


「…円谷さんのゲロマズ料理…まさか柏木くんに食べさせたの!? 殺す気?!」


「な、なんてこと言うんですか! みんな美味しい美味しいって言ってくれます! 裕くんだって……言われて…ない…?」


「そりゃあ円谷さんにマズいなんて言えないよ…ね、柏木くん?」


「そうだったの裕くん!? そんなことないよね!?」



 そこ触れんなよ…


 確かに思い出せば、小学校から家庭科実習で華は違う意味で輝いていたと思う。


 別にそこまでマズくはないと思うが…舌が無意識にスルーしてんのか?


 それともまだ風邪で味覚おかしいのか?


 だとしても…なんか一生懸命だしな…そりゃあマズいなんて言わないだろ、普通。


 お世話にもなってるし。


 それに、三角巾見ると、職業体験で職場に来た中学生の子達をなぜか思い出すんだよな…なんか応援したくなるというか。


 誰だってレベル1からなんだし。


 というか、華は何でさっきからそんな委員長みたいな口調なんだ。


 まあいい。とりあえず答えは一つ。



「いや別に?」


「ほらー!! …こほん。お蕎麦はいただきます。わたしが作ります」


「美味しいとは言ってないからね? …相変わらず甘いんだから。柏木くん、円谷さんの横で見てていい?」


「いいよ」


「裕くん?! 一人で平気だから! わたし!」



 いや、セカンドオピニオン的なのいた方が良いだろ。



「ほら、ちゃっちゃと動く。柏木くん待ってるよ」


「ちょ、ひゃん! どこ押して…もう! 何なんですか! 裕くんこの人変態です!」



「もーそういうのいいから早くしましょ」


「あ、ちょっ、押さないでくださいってば!」



 お前の彼氏よりマシだと思うが…


 森田さんは号泣してから態度が変わったな…こっちが素なのか?


 まあ手際とか動作とか所作とか。あと下準備とか手順とか段取りとか。物作りにはそれが何より一番大事なんだよ。

 

 それにチームならすぐ出来そうだし、温蕎麦好きなんだよ。


 つまり早く食べたいんだよ。


 割と贅沢してんな…僕。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る