華と薫とお昼ご飯。@柏木裕介
今年もあと僅かとなった30日のお昼前。丁度二本の針がてっぺんに差し掛かろうかという時に、インターフォンが鳴り響いた。
カリカリと真面目に受験勉強中だった僕と華は揃って顔を上げた。
華に伝え忘れていたが、今日お見舞いに行くと森田さんからメッセがあったのだ。
事後報告ですんません。
それを聞かされた華はスッと立ち上がりボソボソと言った。
「…わたし出るから。…お塩もらうね…」
「ああ、お願いって塩で何する気だ」
「やだな…なんにもしないよ? 追い払ってくるだけ…」
「なんでだよ。お見舞いに来てくれたんだ…なぜおでこに手を当てる」
「…裕くん、大変…! お熱がある…!」
「そういえば寒気が…ってねーよ。はー…僕が出る」
「あ、あ、立たないで! もう…出れば良いんでしょ出れば……今からお昼ご飯食べて…ゴニョゴニョタイムなのに…」
「何をぶつぶつと…てかなんで怒ってんだよ…」
◆
「……」
「……」
「…」
ダイニングに案内してくれたはいいが、なんでこの二人さっきから突っ立ったままで、黙ったままなんだ?
俯いてるし…なんか怖いんだが…?
それに…なんとなく気不味いぞ…? ラブコメの修羅場じゃあるまいし…
あの病院での諍いは、内容こそ知らないが、方が付いたという話だったが…
暇だし、この二人を紹介しよう。
はい、こちら。白黒の千鳥格子のノースリワンピに身を包んだスタイル抜群のレンタルスパイ彼女、即落ちリバーブ…いやストマックブローだな。が持ち味の生ける死神。幼馴染の円谷華ちゃん。15歳。
変わってこちら。ワイン色のピタっとしたニット地のノースリワンピに身を包んだスタイル抜群の記憶に無い女の子。青春15片道キップが持ち味の情緒不安定型暴走特急、友人の森田薫さん。同じく15歳。
眼鏡外すとまたえらい可愛いなこの子… 黒髪天パのショートボブを今日は後ろに流しておでこと耳を出している。少し垂れ目がちのクリっとした大きな目。鼻はスッと伸びていて、唇はぷっくり。
いかん。友人を評価査定してもた。
というか絶対忘れないだろ、こんな子。
二人とも背が僕より高いし、出るとか出まくってるからか、激凸な威圧感がある。
部屋の中とはいえ、クソ寒いのに二人とも薄着なのもすごい。どちらも黒のオーバーニーしてるストッキング以外、いろいろ丈が短え。
つーか、はよ座れや。
なんか居た堪れないだろ。
しかも何で二人ともノースリワンピの胸元ガン空きなんだよ。寒いだろ。
これがファッションに命をかける若さか…
おじさん、タイツないと無理っす。
「いつ帰るんですか?」
「来たばっかりだよ?」
お。動きがあったぞ。というか、森田さんのリュック大振りでパンパンなんだが…
「今からお昼ご飯なんですけど。ずーすーしくないですか?」
「あ! そうそう、ずーずーで思い出した。ママにお見舞い行くって言ったら美味しいお蕎麦待たされたんだ。柏木くん好き…だよね? 美味しく作ってあげるね。ついでに円谷さんもご馳走するから。ついでに」
なんかいろいろ出てきたな…食材だったのか…鍋出来そうなくらいあるぞ…
「…裕くんのご飯はわたしが作りますからってなんですか、その顔は?」
「…円谷さんのゲロマズ料理…まさか柏木くんに食べさせたの!? 殺す気?!」
「な、なんてこと言うんですか! みんな美味しい美味しいって言ってくれます! 裕くんだって……言われて…ない…?」
「そりゃあ円谷さんにマズいなんて言えないよ…ね、柏木くん?」
「そうだったの裕くん!? そんなことないよね!?」
そこ触れんなよ…
確かに思い出せば、小学校から家庭科実習で華は違う意味で輝いていたと思う。
別にそこまでマズくはないと思うが…舌が無意識にスルーしてんのか?
それともまだ風邪で味覚おかしいのか?
だとしても…なんか一生懸命だしな…そりゃあマズいなんて言わないだろ、普通。
お世話にもなってるし。
それに、三角巾見ると、職業体験で職場に来た中学生の子達をなぜか思い出すんだよな…なんか応援したくなるというか。
誰だってレベル1からなんだし。
というか、華は何でさっきからそんな委員長みたいな口調なんだ。
まあいい。とりあえず答えは一つ。
「いや別に?」
「ほらー!! …こほん。お蕎麦はいただきます。わたしが作ります」
「美味しいとは言ってないからね? …相変わらず甘いんだから。柏木くん、円谷さんの横で見てていい?」
「いいよ」
「裕くん?! 一人で平気だから! わたし!」
いや、セカンドオピニオン的なのいた方が良いだろ。
「ほら、ちゃっちゃと動く。柏木くん待ってるよ」
「ちょ、ひゃん! どこ押して…もう! 何なんですか! 裕くんこの人変態です!」
「もーそういうのいいから早くしましょ」
「あ、ちょっ、押さないでくださいってば!」
お前の彼氏よりマシだと思うが…
森田さんは号泣してから態度が変わったな…こっちが素なのか?
まあ手際とか動作とか所作とか。あと下準備とか手順とか段取りとか。物作りにはそれが何より一番大事なんだよ。
それにチームならすぐ出来そうだし、温蕎麦好きなんだよ。
つまり早く食べたいんだよ。
割と贅沢してんな…僕。
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