ティーンエイジファンクラブ。@円谷華

 クラスに戻り考える。いや、観察観察。


 授業もまとめつつ、観察する。裕くんにノート見せなきゃだし、ムンッと気合いを入れる。やる気が出てくる。むん。


 放課後までの時間。授業中や授業の合間も含め、丁寧に観察した。


 わいわいと囲まれるも、丁寧に観察した。



「…?」



 よく見れば、授業中に小さな紙を受け取っている男子が一人いた。どうもその男の子に、最後に渡る。


 今まで気づかなかった。


 そういえば、わたしはそういうお手紙を受け取ったことや回ってきたことはなかった。


 休み時間は…その手紙の子たちは周りにいない。


 ……もしかして…手に入るかも。


 ちょっと…聞いてみようかな。





 男子トイレの脇にある通路。そこで彼を待った。

 

「ちょっと…いいかな?」


「な! ひ…円谷さん……」



 彼は同じクラスの石崎君。大人しくて真面目。卓球部で活躍していたメガネが似合う朗らかな男の子だ。



「そのさ、えっと…授業中に…お手紙回してたよね?」


「え! あ、い…いや、なんのことか…」



「んー…? 華、見たいっなって…ダメ…? かな…?」



 少し屈んで覗き込むように…! こんなの…した事ないけど、頑張れわたし! 恥ずかしいけど! 頑張れフューチャー!



「か! か、カワ、可愛い………はっ! ダ、ダメだよダメ! あ、ごめん、大きな声で…これは…あ、そう、み、見ない方が!」



「…そうなんだ…もしかしてあの件…かな? そっか…わかった。…君は…優しいね…じゃあね」


「あ、あ…その…ご、ごめ…」



「ううん……でも…いつも応援ありがと。ポテト…ヘッド君…? 守ってくれて。えへへ…じゃあね。はぁ…」


「え…? あ……あ、あ、あ、あの!」



 ノノちゃんのアカウント推測リストにあった、石崎君@ポテトヘッド。



「うん…? 何…かな…?」



 よし! ビンゴだね!





 あの紙は、クズ派の流した噂についての考察が書かれていたそうだ。


 スマホは学校では使えないからと、ポテトヘッド君達が回していた。それも、生粋のわたしのファンの間だけで。


 彼ら彼女らはわたしの周りには近づかないそうだ。


 応援する。それが結成当時からの使命だと言っていた。


 結構怖い。


 視点を少し変えるだけで、まるでこの学校の生徒だという感覚がわたしから薄れていく。同時に、この中学三年間がまったく別物に思えてくる。


 それくらい怖い。


 でも怖いけど、未来のため。


 ほんと怖いけど、こういう人たちを探していたんだ。





「三好が…ひ、円谷さんを襲って…きた…?」


「…うん…でも…証拠ないし…次の日…来たら…今の噂が回ってて…えへへ……わたし…怖くて…さ…」


「あいつ…! やっぱりか! おかしいと思ってたんだ! あ、ごめん、大きな声で…」



 石崎君は、キョロキョロと周りを見渡しそう言った。


 ここは階段裏の小さな用具室の前。


 放課後には人気が無く、冬は特に寂しい場所。ここで彼と待ち合わせをし、今回の件を話したのだ。


 ノノちゃんの評価も優。実際会ったわたしも白。


 美月ちゃんはノノちゃん評価が可。わたしは白よりの黒だった。


 暗い顔で観察した昨日。美月ちゃんの瞳の中に、言葉の中に、トーンの弾みに、ドキドキとワクワクが混じっていたのだ。


 決して心配の色じゃない。


 その態度を確信するためにもノノちゃんのところに連れて行った。サッカー部の話は黙って聞き、帰り際にワクワクを殺して聞いてきた。でもしつこくは聞いてこない。そのあと惚れたなんて不謹慎なことを聞いてきた。だから美月ちゃんとクズは繋がっていると判断した。


 疑わしきは疑う。


 右向け右しか要らない。


 わたしに課した、これは呪いだ。



 そして石崎君は、どうやらわたしの知らないことを知っているようだ。



「ううん。でも…どうして?」


「僕も北小でさ、その円谷さんは覚えてないかもだけど…同じクラスになったことないし…」


「ううん、確か写生クラブ…だったよね?」



 裕くんも入ってたから知ってるよ。わたしは手芸クラブだったけど、よく覗きに行ってたから。ファンクラブ会員なのは知らなかったけど…


 というか、わたしのファンクラブの会員さんですか? なんて聞けないよ!



「…うん、うん、そうなんだ。そうだったんだ。だからよく絵を描きにあちこち行っててさ…佐渡神社…ってわかんないかな。廃棄されたお社でさ。そこから眺める景色が特に好きで…よく一人で行ってたんだ」


「…知らないけど…いい眺めだったんだね」



「うん…ある日そこに行ったらさ。三好がいて。あいつの姉ちゃんもいて……殴ってたんだ…ボコボコにして…物凄く汚い言葉と一緒に。僕は見つからないように隠れてた。その時は人の家庭のことだし、兄妹喧嘩かなって…止めるのも変かなって…でも多分今思えば怖かったんだと思う…」


「…お姉ちゃんって確か…」



「うん、三好が中学入るときに……離婚してから居なくなってた。でもそこじゃなくてさ。次の日に二人…仲良く登校しててさ。それが何より怖くて…僕も兄弟いるけど、普通親に怒られるか、長引くかするもんなんだよ…それくらいボコボコで酷かったのに…」


「…」


「僕はそれからあの神社には行ってない。だからあれは夢なんじゃないかって何度も思ってた。中学に入ってからの三好は…完璧だったし…けど今回の件で思い出したんだ。だからファンクラブの…あ、ごめん…その…仲間には一応注意しとこうと思って…こういうのは早い方がいいから…」


「そうだったんだ…ありがとうね…?」



「いやいやいや! 姫の方が…辛い目に…合ってるのに…任せてくれ! この事はガチ…いや、仲間内で共有するから!…ってまた大きな声だね…ごめん。それに…だいたい柏木君がそんなことするわけがないじゃないか」


「…え?」



 いや、そう本気で素直に言ってくれるのは嬉しいけど…? 


 続けて、石崎君はメガネをくいっと持ち上げ、こう言った。



「だって彼がファンクラブ作ったのに」


「?!」



 裕くん何してるの!?


 また隠し事?!

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